第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
8月中旬。
雄英での新生活が始まろうとしていた。
「焦凍君!おはよ!」
「おはよ」
朝の挨拶を交わしたのは教室ではなく、駅の改札を出たところ。
使う路線が違うのもあって、これまで朝の時間に示し合わせをする事がなかったんだけど。
数日の間で一緒にいることが当たり前のようになっていたからか、昨晩にした通話で待ち合わせをしてから向かおうと話が出たのだ。
「なんだか皆に会うのは久しぶりな感じがする」
「そうか?」
「合宿途中だったし…」
「それは、仕方ねぇだろ」
「うん…でも、今日からは寮で皆と過ごせると思うと凄く楽しみ!」
「俺も。紫沫と寝食共にできるのは嬉しい」
「……えっと、私だけじゃなくて皆と、だよ?」
「何より1番は紫沫と過ごせる事だ」
朝から胸を高鳴らせてくる台詞に少しの戸惑いを覚えながら。
私も同じ気持ちであると、足取り軽く向かった先はーー…
雄英敷地内校舎徒歩五分の築三日。
"ハイツアライアンス"ここが新たな私達の家だ。
「でけー」
「恵まれし子らの——!!」
「とりあえず1年A組。無事に集まれて何よりだ」
「皆許可降りたんだな」
「私は苦戦したよ…」
「フツーそうだよね…」
「二人はガスで直接被害遭ったもんね」
もしかしたら誰かは…そんな憶測は幸いにも杞憂に終わってくれて。
1人も欠けることなく、1-A全員の姿がそこにはあった。
「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうかと思って悲しかったの」
「…俺もびっくりさ。まァ…色々あんだろうよ」
勿論生徒だけでなく先生も含めて。
「さて…!これから寮について軽く説明するが。その前に一つ。当面は合宿で取る予定だった"仮免"取得に向けて動いていく」
「そういやあったね、そんな話!」
「色々起きすぎて頭から抜けてたわ…」
新たに始まる共同生活に胸躍らせていた私達に対して、相澤先生からはいつもの冷静さにどこか畏まった雰囲気を含んだ声がかけられた。
「大事な話だ。いいか。轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ。爆豪・雪水救出に赴いた」
「え…」
その言葉でさっきまでの気持ちは何処かへ。
一気に場の空気は変わり、緊張感が走る。
忘れていたわけではないけど、もう終わったと思っていた「神野事件」の話だった。
.