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【ヒロアカ】雪恋【轟焦凍】

第9章 原作編《神野事件》


紫沫SIDE


知らず知らずの内に焦凍君の顔を見つめてしまっていたらしい。

「紫沫?俺の顔に何かついてるか?」
「え?あっ、な、何でもないよ!」

慌てて目線をそらした。
そんな私を焦凍君は不思議そうに見ていたけど、荷物を早く纏めてしまおうと声をかけて気をそらして。
部屋が綺麗に片付いているからなのか、荷物を纏めるのにあまり時間はかからなかった。
それでも辺りの景色は来た時とは変わっていたから、駅まで送ってもらうことに。

「明日、皆いるかな?」
「いるんじゃねぇか?」
「だといいな。誰か1人でも欠けてたら寂しもんね」
「そうだな」

そうこうしていると駅に着いていて、焦凍君とは一度ここでお別れだ。

「送ってくれてありがとう」
「気をつけてな」
「うん。また明日」
「またな」

睡さんから家に戻ったと連絡があったから、暗くなる前に早く家に帰らないといけないのに。
そこからなかなか動けない。

「紫沫…」

最近ではあまり耳にする事がなかった。
別れ際によく聞いた特有の穏やかさを漂わせる声音。
心地よい温もりが頬に触れると、優しく私の顔は上を向くように促されて。
誘われるようにして瞳を閉じると、顔に影がかかる気配がして。
唇に柔らかな感触が重ねられた。
数え切れない位そうしてきたのに。
する度に胸は高鳴って、心が満たされていく。

「すぐ、会える」
「うん」

それでも名残惜しさを感じずにはいられないけど。
たった一晩。
そうすればいよいよ共同生活の始まりだ。
皆と、焦凍君と一緒に。
だから、今日はもう帰ろう。

「遅刻すんなよ」
「もうしないよ」

懐かしい台詞に笑みが溢れた。
さっきとは違って足はすんなりと動く。
改札を抜けてもう一度後ろを振り返るとそこには焦凍君の。
私の大好きな人の姿。
明日から始まる新たな生活がこんなにも楽しみなのはきっと。
大好きな人と一緒だから。
小さく手を振って、今度こそ背を向けてホームへと足を進めた。



























その日の夜。
昨日まで隣にあった温もりがないことに
少しの寂しさを覚えながらも
そっと瞼を落とした。



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