第2章 中学生編
紫沫SIDE
「ねぇ、どうしたの?」
私の目の前に、膝を抱え顔を埋めて微動だにしない同い年くらいの男の子が座っている。
言葉をかけても返事が返ってくることはなかったけど、それでもその場から去る事はできずにそっとその子の頭を撫でた。
すると、男の子はゆっくりと顔を上げこちらを見つめてきて。
よく見ると身体や顔にいくつもの痣があり、その瞳は涙で濡れていた。
「痛いの…?」
その問いは勿論目の前の男の子の姿に対してなのだけど、何故かそれ以上に違うところが痛くて泣いているのではないかと思えてしまい。
相変わらず返事はなかったけれど、なんとかしてあげたくて幼いながらにも必死で考えていると、周りにキラキラした物が舞い落ちている事に気づいた。
「きれい…」
とても小さい声だったけれど確かに男の子はそう呟いた。
それはとても小さな雪の結晶。
キラキラ光る雪の結晶は男の子の身体に触れると途端に消えてしまう。
「これは、君の"個性"?」
「いつもはこんなキラキラした雪じゃないんだけどなぁ」
「でも、これは僕のじゃないよ?」
「なら、私のだね!」
いつもはただの雪でこんなにキラキラしたのは初めてだった私は、そのキラキラを目で追いかけていると、男の子にさっきまであった筈の痛々しい痣が全てなくなっていることに気がついた。
同時にキラキラも消えていた。
「痛いのなくなった?」
「そういえば…もう痛くない…」
その姿に嬉しさが込み上げてきた私は笑みを浮かべると。
「ありがとう」
そう告げた男の子も笑っていて、さっきまで瞳に溢れていた涙はすっかり消えていた。
「痛いのなくなって良かった!私の名前は雪水紫沫!君の名前は?」
「僕の名前は_______」
起床時間を知らせるアラームの音が鳴り響いている。
手探りでそれを止め、ゆっくりと瞼を上げた。
「夢…?」
未だはっきりしない意識の中、ふと時刻を見ると予定の起床時間から既に10分以上が過ぎていた。
「やばい!遅刻する!!」
慌ててまだ慣れない制服に袖を通し、大急ぎでリビングへ向かうと。
「やっと起きた。もう中学生なんだから早く起きる癖つけなさい」
「行ってきます!!」
学校を目指し全速力で駆け出した。
朧げな夢のことは思い出せないまま。
.