第9章 原作編《神野事件》
紫沫SIDE
寝る時の問題が解決して、これからどうしようかと考え始めた時だった。
「確かめてぇことがある」
焦凍君の右手が伸びてきたかと思うとシャツの襟元を掴まれ。
こちらを見つめる瞳が真剣なものに変わった気がした。
「この服、紫沫のじゃねぇだろ…」
「あ…これは、その…」
「敵連合に捕まってる間、何があった?」
逃げることに必死でそのことが頭から抜けていた。
敵に…業に何をされたのか。
「…私を攫った敵…業に服を引き裂かれて…」
その先をすぐに口にすることが出来ない。
業に付けられた痕は今もまだ残ったままだ。
「…何かされたのか?」
ちゃんと伝えなくては。
変な誤解はされたくない。
「……痕を…付けられた」
そう口にした途端、着ていた服が凍った。
肌を刺すような冷たさの筈なのに、それが焦凍君の"個性"だからなのか私にとっては心地のいい冷気に感じて。
それでもいきなり使われた"個性"に驚かないわけではなかった。
「それ以外は?」
「っそれだけ、だよ」
服を凍らせたことに気付いていないのか。
焦凍君は鋭く射抜くような瞳でこちらを見据えると、言葉を続けて。
「どこに痕つけられた?」
「…胸の、辺り……っ」
襟元を掴んでいた手がいとも簡単に凍った服を粉々に砕いた。
急な出来事に反応が遅れて、服で隠れていた胸元の痕が焦凍君の前に晒されて。
すぐに隠そうと動かした腕はあっさりと掴まれ失敗に終わってしまう。
「やっ、見ないで…っ」
「すぐ消してやる」
それは、初めて耳にする類の重みのある低音だった。
痕を覆い隠すように噛み付かれて、膨らみに歯が食い込んでいる。
業にされた時はただの痛みだったのに、焦凍君のそれには熱が込められている気がして。
与え続けられる痛みと熱に感覚が麻痺しそうになった頃、柔らかなものが這う感触に変わった。
そこにあった痕は塗り潰され、新たに刻まれたのは赫い痕。
「これだけじゃ収まらねェ…」
未だに腕を掴まれていることで身体の自由を奪われていた私は、焦凍君のされるがまま近くの壁際に追い込まれ唇を塞がれる。
口内に侵入してきた舌が遠慮なく絡みついてきて逃れようとすればする程に、ますます深くへと捕らわれていった。
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