第8章 原作編《林間合宿》
紫沫SIDE
寝不足と戦いながらも特訓をやり抜いて、ようやく待ちに待った肉じゃが作りが始まる。
昨日の爆豪君を誰かが見ていたらしく、今日の野菜を切る係を任されていた。
「爆豪くん、包丁使うのウマ!意外やわ…!!」
「意外って何だコラ!包丁に上手い下手なんざねえだろ!」
「出た!久々の才能マン」
「皆元気すぎ…」
私は焦凍君と一緒に肉じゃがを煮込む為の準備をすることになり、一般家庭で使うのよりも少し大きめの鍋に水を入れる為に流しへと来ている。
水を入れ終えて鍋を運ぼうと一歩踏み出したところで、焦凍君は通りがけにいた竃で火を起こす準備をしている緑谷君に声を掛けていた。
「オールマイトに何か用でもあったのか?相澤先生に聞いてただろ?」
「ああ…っと…うん。洸汰くんのことで…」
「洸汰?誰だ?」
「ええ!?あの子だよ。ホラ、えと…あれ…またいない。その子がさヒーロー—…いや、"個性"ありきの超人社会そのものを嫌ってて、僕は何もその子の為になるような事言えなくてさ。オールマイトなら…なんて返してたんだろって思って…轟くんなら何て言う?」
緑谷君の質問に何故か私も考えを巡らせていた。
洸汰君の境遇を偶然にも知ってしまったからかもしれない。
「……場合による」
「っ…そりゃ場合によるけど…!!」
「素性もわかんねえ通りすがりに正論吐かれても煩わしいだけだろ。言葉単体だけで動くようならそれだけの重さだったってだけで…大事なのは"何をした・何をしてる人間に"言われるか…だ。言葉には常に行動が伴う……と思う」
「…そうだね。確かに…通りすがりが何言ってんだって感じだ」
焦凍君のその言葉を聞いて私では洸汰君に言えることはないと思った。
同じ境遇の私はきっと同情することしか出来ないから。
「お前がそいつをどうしてえのか知らねえけど、デリケートな話にあんまズケズケ首突っ込むのもアレだぞ。そういうの気にせずぶっ壊してくるからな。お前、意外と」
「…なんか。すいません…」
「君たち、手が止まってるぞ!!最高の肉じゃがを作るんだ!!」
飯田君の声に今やるべきは肉じゃがを作ることだと思い、鍋を持ったまま暫く立ち止まっていた足を漸く進めた。
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