第7章 原作編《夏休み》
紫沫SIDE
花火を打ち上げる音が重なるように鳴り響く中、突如として一時の静寂が生まれる。
まだ始まってそれ程経っていないから終わりということはないだろうけど。
思いがけず訪れた静けさと暗闇に寂寥感に襲われて。
何かを求める様にして隣へと視線を向けると。
焦凍君の横顔が目に入る。
隣の席から見ることが多かったから必然とよく見ていたのは右側の横顔で。
紅い髪と鮮麗な青緑色の瞳に凜然な雰囲気を感じていた。
しかしこの時に見たのは…
白い髪と儚さを感じさせる灰色の瞳の左側の横顔。
暗闇のせいで姿がはっきりと見えていないけど、だからこそ感情に引っ張られてしまったのか。
また離れて行ってしまうのではという不安が過ぎり、それを搔き消したくて焦凍君の服の袖に手をかけていた。
「紫沫?…どうした?」
「傍にいるのを確かめたくて…」
「大丈夫だ。俺はここにいる」
ゆっくりと伸ばされた掌が私の頬を包んだ。
少しだけ上を向かされて。
唇を重ねられた。
触れたところから焦凍君の温もりと存在を感じる。
けれどこの時の私はそれ以上のものを欲していたらしい。
自ら首へと腕を回し、体を寄せ。
深い口付けを望んで薄く口を開く。
すぐに焦凍君の舌が口内へと侵入してきて。
緩く角度を変えながら互いを求めるように絡ませ合った。
花火が再び打ち上がり始めたのに、それがすぐに離れることはなくて。
夜空に咲く色鮮やかな光を浴びながら。
身体が火照っていくのを止められそうにない。
一度覚えてしまった繋がる幸せを求めている自分がいた。
「今自分がどんな顔してるかわかってるか?」
どれだけの時をそうしていたのか。
名残惜し気に放された口付けの先で。
交わる視線に魅入っていた私はその問い掛けにすぐには応えられなかった。
「そんな無防備な顔されたら止まらなくなっちまうぞ」
暗闇の中で花火の光に照らされて。
いつもと少し違う色に見えたオッドアイは夏の暑さとは別の熱を灯していて。
その瞳に惹き寄せられるまま私が口にしたのはたった一言。
「焦凍君…」
それだけで充分だった。
再び重ねられた深い口付けはさっきよりも深く縺れて。
あっという間に意識が蕩け始めて。
睡さんにちゃんと着付けてもらった筈の浴衣は、
焦凍君の手によって崩されていた。
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