第7章 原作編《夏休み》
紫沫SIDE
いくつもある屋台の中から最初に目に付いた焼きそばの暖簾がかかった出店へとやってきた。
「おじさん、焼きそば一つ下さい」
「らっしゃい!お、学生さんのカップルか!いいねぇ、青春!!」
屋台の人は総じてフレンドリーなイメージがあるのだけれど、この人も例に漏れず気さくなおじさんだ。
「そうだ!花火を見るのに穴場スポットがあるのは知ってるか?」
「ここの花火は初めてなので、この辺りのことはあまり知らないんです」
「それならいい場所を教えてやろう!」
おじさん曰く、ここからは多少離れたところになるけどちょっとした坂道を登ったところに小さい神社があるそうで、そこはあまり地元の人以外には知られていない場所の上、地元の人がわざわざ坂道を登ってそこから見ることは殆どないらしい。
その話を聞いて適当に食べ物を買ってから向かってみようということになり、焼きそばの他に唐揚げやポテトを買って、その穴場スポットに向かった。
「ここで合ってるかな?」
「そうじゃねェか?」
言われた通り、ちょっとした坂道を登った先に周りを木々に覆われた少し小さめの社を見つけた。
木々といっても森のように鬱蒼と茂っているわけではないので、花火が上がれば充分見えそうだ。
「本当に誰もいないね。花火はどこから上がるんだろ?」
「方角的にはこっちだったと思うが」
「じゃぁ、そこの階段に座ってでも見えるかな」
社の前には数段の階段があり、そこに座って買ってきたものを食べながら花火の時間までを過ごすことにする。
お腹が満たされた頃には辺りはすっかり暗くなっていて小さな社には満足な明かりもなく、頼りになるのは月の光くらいだ。
「花火そろそろかな」
そう言葉を漏らした時だった。
笛の音が聞こえてそちらに目を向けると、夜空に大輪の花が浮かび上がり、直後に大きな爆発音が聞こえ、それを皮切りに次々と花火が打ち上がり始めたのだ。
「わぁ、凄い!」
「ああ」
明かりのない中で色とりどりの光は一層輝いて見えて、目が釘付けになる。
多少離れているといっても、身体を震わせる程の音の波に鼓膜を揺らされ、夜空に打ち上がる表情豊かな花火達で私の視界は一杯になっていったのだった。
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