第7章 原作編《夏休み》
紫沫SIDE
プールサイドの日陰になっているとこに座っていると、隣に誰かが座る気配がした。
「大丈夫か?」
「焦凍君」
「暑いの苦手だったよな。飯田にジュースもらったんだが、飲むか?」
「ううん。ちょっと日差しにやられちゃっただけだし、ここで休んでれば平気」
「そうか」
おもむろに焦凍君の右手が私の首元に触れると、右手から冷気が伝わるのを感じて。
今の私にはそれがとても心地良くて、心惹かれるまま瞳を閉じていた。
「焦凍君の"個性"、好きだなぁ…」
小さく溢したのは照りつける太陽とは裏腹な安らぎに満ちた心の声。
「紫沫…」
低く穏やかな声に瞳を開けようとしたその時。
「ったりめーだ!でなきゃこの俺がてめェみてえなクソナードに負けるわけねえだろ!」
空気を裂くようにして聞こえてきた爆豪君の声に、意識を奪われた。
クラスの男子全員いるものと思っていたけど、その姿を見ていなかった事に自ずとそちらに向くと。
「少しはマシになったか?」
「あ、うん!ありがとう」
引き戻すようにして掛けられた声に視線を巡らせれば、焦凍君と目が合って。
刹那、ほんの一瞬だけ唇が重ねられた。
「もう少しここで休んどけよ」
そう言った焦凍君は立ち上がって、男子達の方へと去って行く。
あまりに突然の出来事に何が起きたのかわからなくて呆然としていると、焦凍君が向かった先で飯田君が何やら始めようとしているのを耳の奥が掠めた。
「皆、男子全員で誰が50mを一番早く泳げるか、競争しないか?」
「おお!」
「面白そう!!」
「やろーぜ!」
「飯田さん、私達もお手伝いしますわ」
「ありがとう!」
八百万さんをはじめとした女の子達も集まっているらしい。
けれど私はすぐにその場を動くことができずにいる。
焦凍君のお陰で幾分かマシになった筈の身体の熱が蒸し返してる気がした。
「"個性"は?使っていいの?」
「学校内だから問題はないだろう。ただし!人や建物に被害を及ぼさないこと!!」
「ブッ潰してやるよ、デク!!」
「!!」
「勿論お前もな!半分野郎!!」
「…」
話が纏まってプールサイドに移動してきた女の子達に声をかけられたことで漸く我に返ると。
一旦さっきのことは置いといて私も観戦することにし、日差しのせいではない身体の熱を誤魔化すように声援を送った。
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