第5章 原作編《ヒーロー情報学〜ヒーロー基礎学》
紫沫SIDE
下駄箱に着くと漸く手を放してくれて、よくわからないまま靴を履き替える。
ここまで来てしまったからと大人しく一緒に帰る事にしたけど、やっぱり気になったので何故かを聞いてみた。
「ねぇ、どうして一緒に帰ろうと思ったの?」
「中学の時は毎日そうしてただろ。俺と帰るのは嫌か?」
そんな聞き方をされてしまうと、何だかこちらが悪い事をしたみたいになる。
心なしか轟君の表情が寂しそうにも見えた。
「嫌じゃない!けど、いきなりだったから驚いただけ。ずっと一緒に帰るなんてしてなかったから…」
「…そうだな。これからは一緒に帰るぞ」
「うん!」
その言葉が嬉しくて、何も考えず返事をしてしまっていたけど、すぐに放課後は"個性"の練習がある事を思い出した。
「あ、ごめん…放課後は"個性"の練習があるから一緒に帰るの難しいかも…」
「それ、俺もその場に居たら駄目か?」
「え?どうなんだろ…相澤先生に聞いてみないとなんとも…」
「なら、今度聞きにいくぞ」
「うん…!」
何だかいつにも増して積極的な轟君に少し驚いたけど、少しでも一緒に居られる時間が増えるなら嬉しいから取り敢えず相澤先生に聞いてみようと思った。
すぐに最寄り駅に着いてしまって、乗る電車が違ったから改札を入ったところまでかと思ったら、ホームまで来てくれて電車に乗るまで見送ってくれた。
もし前の家のままなら一緒に電車通学が出来ていたのかなと考えたけど、そしたら私が雄英に通う事もなかっただろうから、何だか不思議な気持ちになる。
両親が襲われて"個性"が制御できなくなった事は決していい事ではないけれど、こうしてまた轟君の傍に居られる事が堪らなく幸せだと思っている自分がいたから。
入学した当時はこんな風になるなんて考えられなかったのに。
成り行きではあったけれど、雄英に通うことが出来て本当に良かったと、改めて思いながらこの日は家までの道のりを進んだ。
翌日、早速相澤先生に放課後の事を聞くとやはり同じ場所にいるのは駄目だと言う事、それと何故か今後の練習は回数を減らすと言われる。
轟君は自主練をしながら待つから一緒に帰ろうと言ってくれた。
それから、クラスの皆から生暖かい視線を送られていた事に、この時の私はまだ気付いていなかったのだった。
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