第14章 月光
それはまだ、光秀とさえりが想いを交わす前、奇妙な関係のままの頃。
夜空には三日月が浮かんでいた。
秀吉は、廊下で佇み夜空を見上げるさえりを見つけた。さえりは僅かな月明かりに照らされていた。
一体、何を考えているのだろう
「風邪ひくぞ」
秀吉はさえりに近づき、自分の羽織をかけてやった。
「ありがとう、秀吉さん」
秀吉と羽織に気付いたさえりが微笑む。
「何してるんだ?」
「月を見てたの。三日月の夜って暗いんだね」
「ん? ああ、そうだな」
何を今更、と秀吉は思う。三日月夜が暗いなんて当たり前だろうに。
さえりは時々不思議な事を言う。
「光秀さんは、無事に着いたかな」
秀吉は眉をしかめた。光秀は信長様の命で、謀反の噂がある大名の所へ赴いていた。
光秀が裏切らなければいいと思う。すべては信長様の為に。
「あいつはそんなに柔じゃない。腹が立つくらいに。全く、もう少し可愛げがあってもいいのにな」
思わず愚痴る。
「可愛げがある光秀さんって想像できない」
「確かに…」
ぷっ、と二人は吹き出した。
秀吉はさえりの笑顔を見てホッとする。
武将が多く出入りする安土城に身を置くさえり。普段は元気なのに戦など不穏な空気には敏感で、よく不安そうな顔をする。
妹としてなのか、一人の女としてなのか、わからないが、この笑顔を守りたいと純粋に思う。
ふと、想い人がいるのではという政宗の言葉を思い出した。
「さえり、誰か好きなやつがいるのか」
「えっ」
唐突な秀吉の質問にさえりは驚いた。
「……うん」
少し間をおいて答えたさえりは、月に視線を移す。
その仕草に、少なくとも自分では無さそうだと、秀吉は少し残念に感じる。同時に自分は兄として接する決意をする。
「いつでも相談にのるからな」
「ありがとう」
さえりは秀吉に視線を戻し、微笑んだ。
「もう部屋に戻った方がいい、夜は冷えるしな。暖かくして寝るんだぞ!布団は肩までかけてだな…」
「わかったよ、秀吉さん。おやすみなさい」
さえりは部屋へ戻っていった。
一体誰なんださえりの想い人は。武将か?町人か?どこぞのドラ息子だったら許さん。
秀吉は鼻息荒く、その場を去っていった。