第2章 史実
「へえ、君はあの明智光秀と恋仲になったのか。興味深いな」
久しぶりにさえりを訪ねて来た現代人仲間で友人の佐助が、目を丸くして驚いていた。表情筋が壊滅的な彼にしては珍しい事だ。
「支障がない程度でいいから、詳しく教えて欲しい」
歴史の傍観者として、と佐助は目を輝かせながら言った。
「えっとね……」
さえりは恥ずかしい部分は隠して、光秀に大名の部下から助けられた事、皆に恋仲宣言したことなどを話した。
「大変だったんだな」
「うん、まあね」
何だか色々大変だった気もするが、過ぎてしまえば良い思い出だ。
「それにしても、信長様は器が大きいんだな。謀反とか下剋上とか、武将にとってのNGワードが出たのに気にしないどころか、好きにしろだなんて」
「確かに……」
さえりは広間での会話を思い出していた。
――さえりは貰ったと言うので、謀反か?と聞いたら如何様にも、と
――それがどうした。下剋上は世の常だ
思い返すと、凄い事を言っているのだと、改めて思う。
「もしかしたら、俺達が知ってる史実は事実ではなく、その広間での事がネジ曲がって伝わっていたりして」
「どういう事?」
佐助が眼鏡の奥の瞳をキラリ、と光らせる。
「謀反は本能寺で起こってるんじゃない、安土で起こってるんだ!」
「みたいな」
モノマネをやりきったというドヤ顔で佐助は言った。
「……ちょっ……ぷっ、あはっ、あはははっ」
さえりは暫くポカンとした後、豪快に吹き出してしまった。
「意味がわからないし、似てないよ」
「残念。もっと練習しておく」
佐助にとっては似てなかった事の方が問題だったようだ。
教科書で習ったような光秀の裏切りは無かった――そう佐助が気遣ってくれたのだろうとさえりは思った。
「ありがとう、佐助くん」
「……? どういたしまして」
似てなかったのに何故、と呟く佐助に対し、そこじゃないよ、とツッコミを入れる。
大事な現代人仲間で親友。その有り難みを身に染みて感じたさえりだった。