第6章 ✼弟切草✼
§ 謙信SIde §
「結様でしたら芝姫様とお出掛けになられましたよ」
「何……?」
叶多の時の記憶が蘇がえる。
女というのは時に恐ろしい事をするものだ。
伊勢姫が自ら死を選んだように、時には他の者に死をもたらすかもしれない。
結は優しすぎる。
十中八九芝姫から誘ったのだろうが、その誘いを断ることも出来なかったのだろう。
城下はいつも通りの賑やかさで、騒ぎが起こっているような様子は無かった。
と、そこに細い道へと入っていく女が目に入った。
毛先に行くにつれて波打つ髪の毛。
(結……?)
何故そんな所にいるんだろう。
胸騒ぎがして足を速める。
ようやく辿り着いたそこには、血を流して倒れながら刃先を向けられている最愛の女の姿があった。
(結!!)
声を掛ける暇すらない。
結に再び短剣が振り下ろされる。
(………!!!)
気が付いた時には体が勝手に動いていて、刃は結ではなく、俺の体に突き刺さった。
「謙信様……」
暫くすると、今にも泣きだしてしまいそうな声が聞こえる。
ああ、結。どうか泣かないでくれ。
「ユイ……またお前をっ……ごほっ、ごほっ…!」
(またお前を傷付けてしまって、悪かった)
大丈夫だ、と慰めてやりたいのに、言葉にならない。
全く……目が覚めたら結を叱らなければならないな。
危険な相手には付いていくな、と言ってやらなければ。
それを最後に、俺の意識は途絶えた。
次に目覚めた時には
「貴様は……誰だ」
結を忘れ、結に出会う前の記憶を全て無くしてしまっているとも知らずに。
「この城の、ただの針子です……」
目の前で優しく微笑む針子をじっと眺めていた。