第2章 ✼藤✼
その家臣は秀吉さんの前で膝を付き、キリッとした声で告げる。
「秀吉様、ご報告致します。今しがた城門にて怪しい者を捕らえました」
「怪しい者?」
「はい。何やら意味の分からないことを言っており…南蛮の言葉でも無さそうなのですが。身なりも見たことの無い身なりをしているのです」
「ただそれだけで捕らえたのか?」
「申し訳ございません。ただ一度御館様に見ていただきたく存じます」
(意味の分からない事と見たことの無い身なり……)
「あの、その人はどんな事を言っていたんですか?」
「何やらここは何処だ、俺は京都に居たはずだ…と。全く話が噛み合いません」
「その人に会わせてもらえませんか?」
「ですが結様…!どこの参謀か分かりません!」
「結?」
家臣の方と秀吉さんが私を見つめる中、私は秀吉さんにしか聞こえないように耳元で囁く。
「私と同じような気がする…タイムスリップしてきた人かも知れない」
家臣の方の話を聞いてから気になっていた。話が噛み合わないのも身なりを不思議に思われるのも、私が信長様と会った時と同じ。
それを聞いた秀吉さんは目を丸くした。
私が五百年後の未来から来たことは数少ない人しか知らない。勿論この家臣の方も仲の良いお針子の方だってそうだ。
「結の傍には俺が付いていよう。だから会わせてやってくれ」
秀吉さんが一言告げると、家臣は「はっ」と腰を折り、城門まで案内し始めた。
「ちょっと何だよ!俺は何もしてないし何も知らない」
少し歩いたところで何か言い争うような声が聞こえて、だんだんと予想は確信へと変わっていく。
黒のシャツに藍色のジャケット、その腕には時計が付けられている。この時代ではまずありえない格好だろう。
(やっぱり現代の人…って…)
「え……?」
お互いの目が合い、確信を得た時、私から出たのは腑抜けた声だった。
「かな……た?」
「結……?」