第5章 ✼風信子✼
「んっ……!んんっ……」
謙信様の部屋に入った瞬間唇を重ねられ、貪るように口内を掻きまわされる。
「んんっ!はぁ…っ……」
何度も何度も繰り返される、離れていた時間を埋めるような激しいキスに立っているのもままならない。
その場に倒れこんでしまいそうになった私の腰を謙信様が強く抱き寄せてくれた。
「結」
切なげに囁かれた自分の名前に、乱れた息はそのままゆっくり目を開くと、綺麗な翡翠色と瑠璃色の瞳は、今にも涙が零らそうなくらい切なげに細められていた。
「謙信様……」
この瞳から流れる涙はどれだけ綺麗なのだろう。
きっとそれを見る事は無いけれど、そんな表情を見てしまうとこの人の涙にすら触れてみたいと思ってしまう。
(私も謙信様に似てきたのかな……)
この一年、離れ離れになっていた事で私の謙信様に対する想いはどんどん大きくなっていた。
でも、それと同時に不安だったのだ。
こんなに時間が経ってしまえば他の女の人を好きになってしまうのではないか、と。
でも謙信様はこうして当たり前のように私の名前を呼んで、当たり前の方にその胸に抱いてくれている。
謙信様の首に手を回して自分から口を重ねる。
言葉ではどうしても伝えきれない想いが伝わるように……。
「んんっ……?!」
謙信様は口付けをしたまま私の体を抱き上げた。
そして褥の上に優しく寝かすと、直ぐに帯が解けていった。
自分の着物も脱ぐと、私の前に謙信様の綺麗な身体が晒される。
謙信様の手が布越しに触れ、袷(あわせ)を開くのもいつもならば恥ずかしくて止めてしまおうとするのに、この時は身動きが取れなかった。
私の身体は謙信様の体と瞳に縛られて視線を逸らすことが出来なくて。
彼の姿はそれほどまでに綺麗だった。
「ずっと……触れたかった」
大きくも優しい手がそっと素肌を伝っていく。
「やはりお前は美しいな」
「んっ……んぁ…」
謙信様に胸に口付けをされる。
お腹に口付けをされる。
口付けをされた所から熱が広がって、謙信様に侵食されていく。
久しぶりに感じる謙信様の熱に、いつもより敏感になっている身体から出る声を抑えるように、手で口を抑えた。