第5章 ✼風信子✼
「謙信様…っ……!」
あまりにも堂々と言うものだから、家臣の方も固まってしまっている。
それとは対照的に、私が現代に戻る前からお世話になっている家臣は「仲が良いですな」と笑うだけだった。
「お前は美しいからな。変な気を起こさないように言っておく必要があるだろう」
また始まった、とため息をつく幸村。
幸村だって最初の頃はまるで自分が言われているかのように顔を赤くしていたのに、今となってはやれやれと呆れるようになってしまった。
「この通り謙信は天女を溺愛しているからな。それだけは覚えていた方がいい」
信玄様が困ったように笑うと、固まっていた家臣達は威勢よく「はっ!」と声を上げた。
(出来れば皆さんと仲良くなりたいんだけどな……)
「結に惚れなければいい。あまり避けていても寂しがるだろうからな。仲良くしてやれ」
「私も皆さんと仲良くなりたいので……あまり気兼ねせずに喋りかけてください」
はい。と返事はするものの、向けられた視線からは明らかに私に対する疑いが見える。
でもそれも無理はない。
自分が来た時には居なかった女を急に妻になる女だと紹介される。
しかも織田家ゆかりの姫として。
直ぐに信じろという方が無理な話だろう。
「結」
大丈夫だとでも言うように、謙信様が優しく腰を引き寄せる。
「はい……大丈夫です」
あまり心配を書けないように笑いかけると、謙信様は私の手を取ってすっと立ち上がった。
「残りは皆で楽しめ」
「謙信様?どこに……」
「言わないと分からないか?」
「……っ、いえ…………」
お酒のせいなのか、少し火照った頬を抑えて、私と謙信様は広間を後にした。