第5章 ✼風信子✼
§ 結Side §
私が帰ってきた翌日には、宴が開かれた。
「おかえりなさい、結さん」
「まあ……その、久しぶりだな」
「佐助君と幸村!久しぶりだね!」
久しぶりに会う皆はいつも通りで、家臣の人達も私との再会を喜んでくれた。
皆の顔を見ていると懐かしさからか、感極まって泣いてしまいそうになる。
「結、泣くな。天女が泣くのは俺が泣かせた時だけだろう?」
「何を言っている。俺だけだ」
いつものように言い合いをする謙信様と信玄様に挟まれて笑ている。それがひどく幸せな事に思えた。
私が居なかった一年の間に、謙信様は何度戦に行かれたのだろう。楽しい宴でそんな事を考えてしまった。
家臣の殆どが集まっている宴で、その場にいない人もいた。
きっと戦で命を落としてしまった人もいる。
この時代に居ると、嫌でも考えてしまう事だった。
(後で謙信様に聞いてお墓参りに行こうかな)
「結、結。聞いているか?」
「あっ…ごめんなさい、信玄様。何でしょうか?」
「君に紹介しておきたい人が居るんだ」
信玄様は私と同じくらいの年の男性を数人呼び出して私の前に座らせた。
「この方たちは…?」
「結がここを離れている間に武田家と上杉家に仕える事になった者たちだ」
(新しい家臣の方……)
一人一人挨拶をしていく中で、こちらをじっと見つめる
視線に気が付く。
「あの…どうかしましたか?」
私が問いかけると、その男性は顔を赤らめて勢いよく顔を横に振った。
「あっ!いいえ!何でもありません!私の名は甘粕景持(あまかすかげもち)と申します」
深々と頭を下げる姿は好青年そのものだ。
「ちょうどお前たちにもうちの天女を紹介しておきたいと思っていたんだ。こちらは結。織田家ゆかりの姫だ」
「結です。普段は安土にいますのでお会いする事は少ないかもしれませんが…よろしくお願いいたします」
「織田…?!」
(まぁ…宿敵だしそうなるよね……)
織田家と聞き、驚いた表情を浮かべる家臣たちを見かねてか、謙信様がおもむろに私の腰を抱き寄せて……
「俺の妻になる女だ。覚えておくように」
さらっとそう宣言した。