第13章 ✼碇草✼
§ 謙信Side §
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「何故お前はそこまでして強くなろうとする」
記憶を無くしている時、暇さえあれば手合わせをしてくれと言ってくる景持にそう聞いたことがあった。
「強くなって上杉に尽くしたい。そして大切な人を守りたい」
「恋仲の者でもいるのか?」
何気なく聞いたつもりだったのに、景持は俺の目を見て悲しそうに笑った。
「……いいえ」
悲しそうにも見えるその瞳は、一体何に対しての悲しみなのだろう。その時の俺には分からなかった。
でも記憶を取り戻した直後、俺に生意気な口を聞いた景持は「想い人に幸せになってほしいから」と言った。
あれはもしかして、結が一人で苦しんでいることを知っていたから俺にあんな事を言ったのではないか。
……だから、記憶が戻った後、同じことを聞いた。
「何故お前はそこまでして強くなろうとする」
「謙信様と結様を、命を懸けてお守りしたいからです」
きっと、あの時言った「大切な人」とは結の事で。
景持が結に対して抱いているのは忠誠心だけではない。
「結は渡さんぞ」
牽制するように言うと、景持は小さく笑った。
「気付いてたんですね。俺が結様を好きだって」
「当たり前だろう」
「好きだった事は本当です。でも今は違います。結様の隣は謙信様だと身をもって知ってますから。だからこそ、俺はお二人が作る未来を見てみたい。命を懸けてもお守りしたいと思いました」
その目は本物だった。
こいつなら.......結を守ってくれる。
そう思ったのは佐助以来だった。
「お前を信じよう、甘粕景持。その命が尽きるまで俺と結に仕えろ。無論、道半ばで死ぬ事は許さん」
俺の言葉に、景持は大きく頷いて頭を下げた。
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