第13章 ✼碇草✼
「結、見せたいものがある」
現代から帰ってきた次の日の朝、私は謙信様に連れられて出掛けていた。
「着くまでは目を瞑っていろ」
「またですか……?」
この前もそんな事を言われた気がする。
私に見せたくない何かがあるだろうか。
「直ぐに分かる。だから今は目を瞑っていてくれ」
「……分かりました」
目を閉じると、風を感じられる。
向かい風が、前髪をさらっていった。
戦国の世で、こうしてのんびりできるのは紛れもなく謙信様のお陰だ。
例え襲われたとしても、絶対に謙信様が守ってくれるから。
「ん……」
寒さを感じて身をよじると、それに気づいた謙信様が馬を止めて自分の着ていた羽織を私にかぶせてくれた。
「すまない。無理をさせているな」
「いえ、そんな……。羽織は謙信様が着ていてください。お身体が冷えてしまいます」
「お前の体が冷えてしまう事の方が問題だ。まだ少しかかるから着ていろ」
「ありがとうございます……」
「もうすぐ太陽が出てきそうだからそれまで我慢していてくれ」
腰に回された腕の力が強くなり、私もそこに手を重ねた。
謙信様に体を預ければ、いつものように頭を撫でてくれる。
(ちょっと眠い……)
謙信様の記憶が無くなってから、色々な事がって、記憶を取り戻した後も現代に行ったりと、少し疲れが溜まっていたのかもしれない。
ゆっくり謙信様の馬に揺られることも久しぶりで、その心地よさに眠たくなってしまった。
耳にそっと届く風の音と、息を吸う度香る謙信様の香りに、私は眠りに落ちていった。