第12章 ✼猩々木✼
「私はここで失礼いたしますね。どうぞゆっくりしていってください」
「わぁ……!」
が淡い月の光に照らされて光る大きなステンドグラス。
ガラス張りの天井からは月が見える。
そこにいるだけで心が浄化されそうな空間に、思わず息を飲んだ。
教会の中では、オルゴール調のクリスマスソングが流れていた。
「美しいな」
「はい……ここでは神様に祈りを捧げたり、恋人たちが永遠を誓ったりするんです」
「永遠、か。結、来い」
あまりの美しさに見とれていると、謙信様が私の手を引いて教会の奥へと足を進める。
主祭壇にある大きな十字架の前へで足を止めると、謙信様はそっと私の手を取った。
「今日、お前とも佐助とも色々な物を見た。本当に、全てが美しかったのだ。皆が笑っていて、争いなど起こらない。本当にそんな世が来るのだと実感した」
「……はい」
「きっと俺と出会わなければこの綺麗な世界で、結は笑っていられた。俺と居る事で流す必要のない涙を流せてしまう」
どうして、そんな悲しそうに笑うんだろう。
月夜に照らされた謙信様が美しくて、何も言えなくなってしまう。
「それでも俺と生きる事を選んでくれた結を離すつもりはないよ。……ただ、後悔はさせてくれ」
「後悔……ですか?」
「ああ。お前に友との未来を捨てさせてしまった。その代わりに沢山の重たいものを今から背負わせる。それでも……そうなると知っていても、もう離すことが出来ない」
謙信様と戦国時代で再会して、私の記憶を無くして……その後妻になってほしいと言われた。
私には断る理由なんて無くて、嬉しさでいっぱいだったけれど、謙信様は私にその言葉を伝えるためにどれだけ悩んだのだろう。
きっと今日、この世界を見て思ってしまったのではないか。
──結が居るべき世界はここなんだ、と。