第10章 ✼(黄)水仙✼
§ 謙信Side §
「ようやく着きましたね」
目の前にそびえ立つ安土城。
それが今は、何よりも恐ろしいものに思えた。
ここにいる者はきっと、一人残らず俺に憎しみを抱いていることだろう。
「俺は城番に話をして来ます」
「待て、俺も行こう」
門へと近づいていくと、俺達に気付いた城番はぎょっとした顔をした。
「貴様ら!何をしに来た!」
「結を迎えに」
「なっ……」
面食らった顔をする城番。
それとは対照に、佐助は呆れたようにため息をついた。
「それでは説明になってません、謙信様。信長様と話をさせてください。その為に俺達は来ました」
「確かに二人だけで甲冑も着ずにここに来たのなら戦う気は無いのだろう。だがそんな話では無いのだ」
「何……?」
「御館様からは上杉謙信が来ても絶対にこの城に入れるなと言われている」
流石は信長。手が早い。
あるいは、結がこの城に戻ってきたときからずっと俺が来ることを待っていたのかもしれない。
今ここで戦う気が無いが、主の命を受けた者たちは絶対にここを通しはしない。
どうしたものかと思ったその時、門の奥から一人の声が響いた。
「こんな夜に誰か来てるの?」
「お前は……」
「家康様……!それが……」
奥から出てきた徳川は、俺の姿を見るなりあからさまに顔をしかめた。
「っ……お前、何しに来た」
「結がここに居るだろう。迎えに来た」
「……とりあえずこの二人を中に入れて」
「ですが!御館様が!」
「その俺が良いと言っている」
威厳のある声が響き、現れたのは織田信長。
この状況を楽しんでいるかのように一人笑っていた。
「戦狂いの軍神が甲冑も身に纏わず来るか。大したものだな」
「勘違いしないで。外で喧嘩になっても迷惑になるから入れるだけ。結に会わせる気は無い」
冷静を装っていても、その言葉には棘があり、拳は固く握られている。
二人に連れてこられたのは客間だった。