第9章 ✼赤熊百合✼
§ AnotherSide §
天守閣から夜景を眺めていた信長は、暗闇の中を駆け抜ける二頭の馬を見て右の口角を上げた。
「随分と遅かったものだ」
そして、部屋の中で静かに本を読んでいる結に声を掛ける。
「結、一つだけ相談がある」
「命令では無くて相談ですか……?」
「ああ。お前を————————————」
それを聞いた結は、少し驚いた表情をしながらも小さく頷いた。
「……私はこんな状態ですし、何も出来ません。それでも良いと言ってくださるなら、是非」
何日ぶりかに見た微笑みに、さすがの魔王の胸も少し締め付けられた。
「俺は少し出てくる。夜景でも見ていると良い。今日は綺麗な空が見られる」
「……はい。お気をつけて行ってきてくださいね」
そして、漆黒の羽織を羽織って部屋から出て行く。
その瞬間の顔は、先ほどまで結に見せていた表情ではなく、誰もが知る第六天魔王そのものだった。