第11章 夏の約束 漣ジュン
セミがうるさい夏になると、セミよりねちねちと口うるさい少女が木陰のベンチに姿を現す。
本を片手に、誰かを待っている。
誰かが来ると、本を閉じて言う。
「何か、私に言うことは?」
誰かは、時間に遅れたことに謝罪する。この場所に彼が彼女より早くたどり着いたことはなかった。
「セミ、うるせえ」
「君のの息切れもね」
「お前さあ、もう少し時間遅くにしてくれねえのかよ。俺毎年間に合ってねえだろ。」
「頑張って」
「よし、明日も遅刻する。ごめんな。」
いつも通りの会話が始まる。
「じゃ、行くか」
二人の、夏の約束。
海に行くこと。
花火を見ること。
かき氷を食べること。
年を重ねるごとに約束ごとは増えていく。
「なぁ、来年の約束今していいか?」
「かまわないよ。」
二人がならんで歩く。もはや夏の風物詩だ。
「来年、俺はお前に告白する」
「…………期待しておくよ」