第10章 おとぎ話にレクイエム 月永レオ
散策騒いだあと、月永が五線譜に目を再び落とす。何かを考え込むような仕草を繰り返し、何回か咳払いをしたあとに。
歌いだした。
私の書いた詞をそのままに、即興の旋律で。
「……………………………どうだった?」
歌い終わったあとに、月永が聞いてきた。
「……自分のレクイエムを自分で歌うなんて非常識にも程が「もっと良い感想はないのかお前!!」」
月永が激昂する。
「うん、即興の割に良かったと思う………私の歌詞。」
「自分誉めるのかよ!?」
「あと、これじゃレクイエムじゃなくてただのノクター「もういい!!」」
ムスッとしだしたので私は口を閉じた。うん、このやり取りは前に会ってたときと変わらないな。
「格好良かった」
「………清々しい棒読みだな」
「うん、良かったと思うよ。歌ってたのがレクイエムなのが気に食わない。もうそれノクターンで良い?でもノクターンは歌うものじゃない気がするんだけど。」
「…………………」
月永は黙った。ため息をついて、ガシガシ頭をかく。
「まあいいや。通常運転みたいで。会えてホッとしたし…。」
「会いたかったわけ?」
「……そうじゃなかったらこんな回りくどいことしない。」
「サイトに来れば反応するのに。」
「…………………現代っ子め。」
「お互い様でしょう。」
私がそう言うと月永はまたため息をついた。
「……………なぁ。また、会える?」
そのしばらくあとに弱々しく聞いてきた。
「さあね。でも、生きているなら確率は1%以上あると思うんだけど。」
「……俺を忘れない?」
「人間の記憶は薄れていくものだよ。」
「思い出してくれる?」
「電話くれたら、時々は。」
月永が五線譜を握りしめた。私はその姿を見て、笑った。
「レクイエムって、こういうときに歌うんじゃないの?死んでなくても、お別れに歌える歌でしょ?」
月永が首を振る。
「歌わない」
月永は前を向いている。
「俺は、またお前に会いたいから」
私はそれに頷いた。
「じゃあ、今は歌わないでいるよ。」
「あぁ。」
「またね、月永。」
私達は笑った。
公園に流れた、一瞬のレクイエム。
おとぎ話のようにそれは。
幸せな結末へと、導いていく。