第4章 守りたいもの 氷鷹北斗
北斗は父親からの電話に出るのが嫌だった。
でもその日は機嫌が良かったのか、何なのか。
つい父親からの電話に出た。
『病院に来なさい』
珍しくその声は真剣で。
『ちゃんに、会ってあげてほしい』
北斗がその名前を聞くのは久しぶりだった。
はいつ出会ったのかも覚えていない彼の幼なじみだった。
中学に上がってから疎遠になり、段々話すこともなくなっていった。
しかし北斗はずっと幼なじみを気にかけていた。
学校でいじめられていたからだ。
一部の男子からひどい扱いを受けていた。暴力、暴言、インターネットの誹謗中傷。
抗議の声は受け付けてもらえず、ボロボロになりながらもは笑い続けていた。
北斗の前で、笑っていた。
だから北斗が悪質ないじめに気づいたのは大分後で、その頃にはが学校から姿を消していた。
中学最後の一年間、北斗はに会うことはなかった。
だからあと一週間で高校二年生になろうとしているこの春に彼女の名前を聞くとは思っていなかった。
何より自分の前から姿を消していた幼なじみの名前を聞くとは予想だにしていなかった。
なぜそれが父親からの電話なのかわからなかった。が、その口ぶりからして何かあったことは明白であった。
それだけの条件が揃えば、北斗が最寄りの病院まで走る理由にはなる。どこの病院なのか教えないのが父親らしいが………。だからとはいえ、住んでいる地域に多数の病院があるわけでもない。行く場所は限られている。
病院に行き受付で事情をできるだけ詳しく話した後でようやく病室に到着できた。
父親が顔も隠さず堂々と病室の前にいた。廊下を歩く看護師達は見向きもせず忙しそうにしている。
「ほっちゃん。僕といくつか約束をしてからこの部屋に入ってください。大きな声や音を出さないことと、持ってはいないと思いますが鋭利な物は持ち込まないでください。」
北斗はいまだに状況を飲み込めずにいた。
病院に幼なじみがいることさえ驚きなのに、彼女がいるのは……。
精神病棟なのだから。