第9章 齟齬
さえりを送った帰り道。光秀はふと空を見上げた。
「暁月か」
空には細い月が浮かんでいた。もうすぐ朔だ。さえりと一緒に月を見上げた夜が思い出される。
月が明るすぎると諜報活動がしにくい。
そんな話をした記憶がある。まるで予言者だな、と自嘲気味に笑う。
そう、自分は暗中飛躍。闇に活動するものは闇に葬り去られる。そんな自分の運命にさえりを巻き込む訳にはいかない。
「勝手な……」
さんざん身体に触れて弄んでおいて、今更巻き込めない、などと。
だが、これ以上は止められなくなる。
潮時か。
謀反の調査には安土を暫く離れる必要がある。さえりと距離を置くのにちょうどいい。さえりには何も告げず行くと決めていた。実際にさっきまで逢っていたのに伝えなかった。
お前は何を思うのだろうな……
少しだけ痛む胸の奥の疼きには気付かないふりをする。
光秀は表情を消し、静かに闇夜へと消えていった。