第9章 齟齬
あの日、さえりと家康、政宗のやり取りを光秀は見ていた。会話は聞こえなかったが、二人の行動からさえりを口説いているように見えた。
モヤモヤとした感情が光秀を支配する。
これは、嫉妬……というやつか?
俺はさえりに、惚れているのか?
あんなことをしておいて
「おい光秀、聞いているのか?」
思考が切り替わる。さっき廊下で秀吉に呼び止められた事を思い出した。
「ああ、すまない。何だったかな」
光秀はいつものように読めない笑みを浮かべる。
「珍しいな、大丈夫か」
秀吉は心配そうに眉を寄せたが、光秀の表情から大丈夫と判断したのか、話を続ける。
「午後から軍議をする事になったから、遅れないようにな」
「それは政宗に言ってやれ」
「それもそうだ。政宗の遅刻癖には困るよな」
じゃあな、と言って秀吉は去っていった。
俺はなにをやっているんだ
自分らしくもない
光秀は苦い思いを噛み潰す。
その時、さえりが廊下の角から姿を見せた。
「さえり……」
「光秀さん……」
お互い黙って暫く見つめ合う。視線が交わる。
「後でな」
「はい」
光秀はさえりの頭をポンポンと撫でながら、すれ違って行った。さえりは振り返り、光秀の背中を暫く見つめていた。