第8章 熱に浮かされ
「何してるんだ?」
誰もいない廊下を見つめるさえりに政宗は声をかけた。
「政宗……」
さえりは振り返って政宗を見た。
「自分の気持ちが、わからないの……」
消え入りそうな声でポツリと呟いた。
「ごめん、何言ってるんだろう。忘れて」
我に返ったように照れ笑いするさえりを見て、政宗は茶屋での事を思い出した。
「へーえ、じゃあ俺が教えてやるよ」
政宗はさえりを壁まで追い詰め、手を壁について閉じ込めた。
「何……?」
つーっと指でさえりの首筋をなぞる。
「やっ……!」
さえりは顔を背け、眉間に皺をよせぎゅっと目を閉じた。
さえりは無防備すぎる、と政宗は思った。どれだけの男が憧れを抱いていると思っているのか。信長様の気に入りだから守られていると言う事をもっと知るべきだ。
政宗はさえりの胸元まで指を動かすと、ピタリと止めた。
「今、頭の中に居るのは誰だ」
「えっ?」
さえりは困惑の表情を浮かべ政宗を見た。
「誰の顔が浮かんだんだ?」
さえりの目が見開かれていく。それを確認した政宗は満足そうに体を離した。
「それが答えなんじゃないのか」
さえりが頷く。
「ありがとう政宗。答えが見つかりそうだよ」
「どういたしまして。礼は口づけでいいぞ」
「もう……何言ってるの!」
赤面した後、さえりはまたね、と言って去って行った。
「あーあ、お人好しだな俺も」
先程、自分を見つめるさえりの瞳に、一瞬だが吸い込まれそうになった。
「上手くいったらアイツからも礼を貰わないとな」
アイツからの口づけは嫌だがな、と一人笑いながら、その場を後にした。