第6章 向こう側
「ひどいです……」
「そのわりには、座布団が濡れるほど、下から涎を垂らしていたようだが」
今はまだ夕刻。
手を繋ぎ、大通りを避け人気のない裏道を歩く二人。
「意地悪……」
赤い顔で俯きながらさえりが言う。それはいつものお決まりの光景になってきていた。
「まだ早いな。少し寄り道をしていくか。付き合え」
「えっ」
光秀はさえりを最近話題の茶屋へと連れてきた。お茶2つとみたらし団子を一皿注文する。
「どうしたんですか? 急に」
さえりは怪しむ表情を見せたが、運ばれてきた団子を頬張ると、美味しい! と声をあげた。
「単純だな」
「放っておいて下さい」
さえりは団子を食べながらむくれる。
「ほう、放置されるのがお好みか」
「そう言う話じゃないです……!」
いちいち赤くなるさえりに、光秀は笑みを深め愉しそうに笑うばかりだった。
「へえ……」
茶屋から離れた路地で、たまたま光秀とさえりを見つけた政宗は目を見張った。端から見るといつも通り、さえりをからかう光秀だったが、政宗は少し違和感を感じていた。
「あれは、ただの仲良しって雰囲気じゃねぇな」
政宗はそう呟いた。