第4章 月と痕
光秀とさえりは手を繋いで、城までの道のりを歩いていた。正確にはフラフラになったさえりの手を光秀が引いていただけなのだが。
誰かに見られたらと心配するさえりに対し、夜道だから大丈夫だと光秀は言った。
「それにしても指一本でイくとはな」
ククっと光秀は喉を鳴らして愉しそうに笑う。
「こんな所で言わないで下さい……!」
真っ赤な顔で光秀を睨むさえり。
「ほう、何処だったら言っていいんだ?」
「何処もだめです!」
残念だ、と言いながら意にも返さない光秀に、さえりはため息をついた。
じゃり、じゃり、と二人だけの歩く音が夜道に響く。
「あ、満月かな? 綺麗……」
ふと空を見上げたさえりが呟く。つられて光秀も空見上げた。
「あれは十六夜だな。少し欠けている」
「十六夜?」
聞き慣れない言葉に、さえりが月から視線を移し、光秀を見つめる。
「満月の次の月の事だ」
「じゃあ、昨日が満月だったんですね」
さえりはまた月へと視線を移す。
「月は好きか?」
いや、俺は何を聞いているんだ
さえりの横顔を見ているうちに口をついて出た質問に光秀は少し戸惑った。
「え? 綺麗だなって思いますけど……光秀さんは月が嫌いなんですか?」
さえりが不思議そうに聞いてくる。
「月は」
――人を狂わせる
「月が明るすぎると、諜報活動がしにくいからな」
ニヤリ、と笑みを浮かべた光秀を見て、さえりは腑に落ちないという表情を浮かべている。
その瞳に自分が映っている事に光秀は少しの嬉しさと何故か戸惑いを感じた。
「月より、乱れているお前のほうが綺麗だ」
何かを誤魔化すように光秀は言った。
「それ、褒めて無いですよね……!」
「褒めたんだが……本気にしてもらえないのは寂しいな」
顔を赤らめて反論するさえり。表情がコロコロと変わり見ていて飽きない。
「月、か……」
月も満ち欠けで表情を変える。まるでさえりのようだ、と光秀はさえりに聞こえないようにひとりごちた。