第2章 安土城下
馬を走らせ辺りが暗くなってきた頃
ようやく安土の城下町に到着をした
旅籠に泊まるのかと思っていたが
信さんたちはここで家を持っているらしい
小さいながらに三部屋もあり
その一室をわたしに貸してくれた
ただ乗っていただけとは言え
慣れない馬での移動で疲れていたわたしは
あっという間に眠りについた
『おはようございます』
「おはよう姫」
「おー」
着替えを済ませて隣の部屋に入ると
幸さんは大きな荷物を持っていた
『幸さん出掛けるんですか?』
「幸はね
朝市で行商してるんだよ
姫は安土は始めてだろう?
俺が案内しよう」
『いえ、わたしは幸さんとご一緒します!』
「ああ別に良いけど
邪魔すんなよ」
『大丈夫です
接客は得意ですから!』
「そのしゃべり方止めろ、あと幸でいい」
『うん!よろしくね幸』
「んじゃ、行ってくるけど
甘味ばかり食べないでくださいよ」
『信さん、いってきます!』
信さんに挨拶をしてわたしを置いて
先に家を出ていく幸を追いかけていった
市場に着くと場所が決まっているらしく
腰を下ろすと直ぐに商品を並べ出した
簪や櫛といった女性ものの華やかな商品
この商品は信さんが調達してくるらしい
商品を並べて直ぐに若い娘たちが集まってきた
『ねえ幸
最低いくらぐらいで売ればいいの?』
きゃっきゃっと楽しそうに商品をみる
女の子を横目に幸にこそっと声をかけると
お前は呼び込みだけしてろと言われてしまった
昼前には店じまいをして幸とはここで別れた
一人で大通りに立ち並ぶ店を見て回り
椿が寄りそうな店の店内に入ってみたりと
あちこち歩き回ったが出会うことが出来なかった
それから数日間時間帯を変えて
大通りを行ったり来たりを繰り返したけれど
葉月が椿を見つけることはなかった
「怪しい女がいると聞き見に来てみれば」
物陰から葉月を見て笑いながら光秀は観察を続けた