第1章 甘味やの看板娘
ここは安土から本能寺への中間地点にある小さな村
少数の村人と旅人のための旅籠や甘味やがある
その甘味やでわたしは働いている
数日前からこの村の旅籠に泊まっている男性が
今日も甘味を食べに来てくれた
『いらっしゃいませ
ご注文はお決まりですか?』
「団子と君を貰おうかな」
『信さんわたしは売り物じゃありませ~ん
お団子すぐお持ちしますね』
お茶を受け取った後に
にこやかな笑顔でさらっと口説く男性
最初は戸惑ったが馴れてしまえば
こちらもさらっと受け流せる
『女将さーん
お団子お願いします』
「あんたまた口説かれてたね~
葉月は可愛い看板娘だけど
好い人が出来たら何時でも辞めていいだよ?」
『も~何いってるんですか女将さん
まだまだ恩返し出来てませんから
わたし出ていきませんよ!』
半年前に村の近くの泉の側に倒れていたわたしを
女将さんが見つけて介抱してくれた
帰る場所が無いわたしをお店に置いてくれている
「そうかい?なら頑張って働いてもらおうかね」
『はい!』
「あんたまた勝手に甘味食ってたろ」
「やあ幸
残念ながら食べてないよ」
信さんにお団子を持っていくと
座る信さん隣で怒っている男性が居た
『お団子お待たせしました~』
「やっぱり食ってんじゃねえか!」
「これから食べるんだよだから嘘は言ってないぞ幸」
わたしからお団子を受け取って笑顔を幸さんに向けた
「あ~もう屁理屈はいい!
兎に角今から出立なんですから
団子食ってる暇はないんですよ!」
『じゃあ持ち帰れるよう包みますね』
「ありがとう
出来れば君も持ち帰りたいんだけど・・・」
『さっきも言いましたけど
わたしは売り物じゃありませ~ん』
もう一度厨に入り団子を包み信さんに渡した
名残惜しそうにする信さんの襟首をつかむように
幸さんが引っ張って連れて行った