Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第30章 ときめきを貴方と【沖矢昴】
“君のいない世界なんて考えられない…”
“離れてみて気付いたよ…こんなに好きだったんだって…僕には君が必要なんだ…もう離さない…”
外は穏やかに晴れている、休日の昼下がり。今日は特に用事もない。一緒に住んでる彼氏の昴さんは外出中で、現在自宅に一人きり。
暇なのでリビングのソファに寝転び、スマホでとある“乙女ゲーム”をプレイしている。
乙女ゲームとは、好みのイケメンキャラを選んで、そのキャラと恋愛して…愛に溢れた言葉を文字だけじゃなく声でも囁いてもらえる……渇いた心に潤いを与えてくれる素晴らしきゲームだ。
別に私と昴さんの関係が渇き切ってる訳じゃないけど……付き合い立ての頃や、一緒に暮らし始めた頃にあった“ときめき”はもうすっかりなくなってしまったと言える。
いい意味でも、悪い意味でも、慣れてしまった。
その彼も今はいないので、スマホから出る音量をMAX近くまで上げて、推しキャラの音声を存分に楽しんでいる。
“ああ…こうやって二人でくっついているだけで…幸せだな…”
つい、甘いセリフに顔がニヤけてくる。これはゲーム、作り物だとは分かってるけど、やっぱりドキドキしてしまって。思わず自分の腕で自分の身体を抱き締める……
だけど、そんな浮かれた時間は長くは続かず。
突然背後から掛けられた声に驚かされて飛び起き、声の主を確認して、四肢が硬直する。
「何をしているんですか?さん…」
「っふえ!?す、昴さん!?お、おかえりなさい……」
「ええ。誰と喋っていたんですか……」
「誰?っていうか……ゲームを……」
「ゲーム…?」
「……見てみます?」
私のスマホを覗き込んできた昂さん。ちょっと恥ずかしいけれども、そのままゲームをプレイすれば、時折大音量でキャラの声が再生される。
“柔らかいな…ずっと触れていたいよ……”
“君の髪も、唇も…全部僕のものだ…”
「さん…何ですかこれは……」
「だから…こういうゲームなんです…好みのキャラと恋愛するんです…」
「…こんなものが楽しいんですか?」
「…楽しいんです……あっ!」
「どうかしました?」
「ちょっと、ここ、座ってください!」
呆れ顔の昴さんを隣に座らせる。我ながらスゴイことを思いついてしまったかもしれない。