Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第28章 手作りスイーツに下心【安室透】
昔から物語でも小説でも漫画でも、本を読むのが大好きで。ついに自分でも書き始めたのは学生の頃。
大学時代、暇が高じて気楽に書いた長編恋愛小説、それをとある賞に応募してみたら、なんと入賞した。
小説は名の通った出版社から発売され、ぼちぼち売れて予想外の収入になり。
浮かれた私は卒業後就職もせず、“小説家”として生きていく道を選択した。
しかし私は文章を作り出す天才でも何でも無い。現実はそんなに甘くはなく。
“売れた”と言えたのは最初の一冊だけ。それからは時間を掛けて練りに練った作品を出しても出しても全くの泣かず飛ばず。
やっぱり自分には向いてなかった、書くのは諦めよう、でもやっぱり本が好きだから本に携わる仕事がしたい……と、右往左往していたら。
付き合いのある編集者さんに勧められた“ある仕事”をすることになり、いつの間にやらそれが生計を支える収入源となった。
現在の私の主な仕事は、女性向けの“官能小説”を書くこと。恋愛的な要素と性的な描写がガッツリある小説ってことだ。
嬉しいやら悲しいやら、これの売れ行きが中々良くて、本意ではないけど辞められない状態……
夏も終わり。涼しくて過ごしやすい今日も、いつも通り朝の9時に家を出て、自宅からは少し離れた所にある喫茶ポアロの一番奥のテーブル席でPCを広げた。
良い香りのコーヒーを啜りながら、次の作品の候補プロットをあれこれ考えている。
ちなみに私が毎日朝の9時に家を出るのは、ご近所さんに“定職に就いている”フリをする為。
自宅から少し離れたこのポアロに来るのは、近所の顔見知りに会わないようにする為だ。
実は、少し前まではポアロも含め色んな喫茶店やファミレスに行ってたのだけれど。最近はポアロがダントツで多い。
その理由は、“彼”である。
カウンターの内側にいる男性店員にチラリと視線を送る。
金に近い明るい髪色に、日に焼けた肌、スラリとしたモデル体型、それからなんと言っても整った顔立ち。接客態度も明るく柔らかくて、イケメンなのに嫌味がない。
他の常連客や店員に“安室さん”と呼ばれているので、安室と言うんだろう。ちなみに探偵でもあるらしい。
その彼を見ていると、不思議とアイデアが湧いてきて。
そしてその彼を頭に浮かべながら考えた小説の売れ行きが最近とても芳しいのだ。