Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第25章 夏の誘惑*前編【降谷零】
タクシーに乗って着いたのは、少しかしこまった感じの小綺麗な和食屋さん。たしかに一人でフラっと入る雰囲気のお店ではない。
個室に通され、メニューを開き……注文をし出した降谷さんは、“自分の食べたい物”よりも“□□社の部長の好みそうな物”を頼んでるようだった。ほんと徹底してる……
だけどそういう私も、“本当は降谷さんはコレが食べたいんじゃないかなー”ってものを注文する。どうかしてる。でもだって、今日は彼のお誕生日だし。
降谷さんがスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて。仕事中はいつもキリッとしてる顔付きも、いくらか柔らかくなった。
そりゃあ普段もカッコイイけれど……こういう彼も、悪くないと思う。(私は密かに降谷さんに思いを寄せている)
明日は二人とも休みだ。お酒で乾杯して、料理を食べれば……うん、美味しい。食にうるさい(らしい)あの部長のおすすめな訳だ。
「美味しい……雰囲気もいいし、接待にも使えそうですね」
「だな。リストに加えといてくれよ」
「はい」
「△△社の社長なんかも好きそうだな」
「あー、たしかに。ぽいです」
「最近行ってないし……近い内に顔出してくるかな……」
「でしたら……○○社の新しい……の……、あれもついでに見てくるといいんじゃないですか?たしか近い筈です」
「……そうなのか?どこからの情報だ?」
「今日○○社のSNSに上がってたんです」
「へえ……知らなかったな……さすがさん」
「それは……」
なんで私がそんな事を知ってるのか。それは、降谷さんが気分次第の動き方をしない、予定を予定通りに遂行する、やると決めた事は必ずやり遂げる人だからだ。
つまり、私は何を準備しておけばいいのか、早い段階から予測を立てられるから、すごく仕事がやり易くて。
余った時間で取引先の情報収集までできるのだ。
それを降谷さんに伝えると、彼の表情が数秒固まった……もしかして変なこと言ってしまったか。
「……降谷さんすみません、出過ぎたことを言いました」
「いや……全然。むしろさんが僕の担当でよかったって改めて思った。信頼できる人がいるから、僕も時間いっぱい外で動いてこれるんだ。これからもよろしくな」
「は、はい!ありがとうございます……」
ニコっと笑いながらそんな事言われると、照れてしまう。