Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第25章 夏の誘惑*前編【降谷零】
8月初旬、夏真っ盛り。外は茹だるような暑さとセミの声。
だけど私が日中の大半を過ごすこの職場、第一営業部は、夏でも長袖必須の冷涼な(半袖じゃ寒い)空間。
カチッとしたスーツにネクタイの営業マン達が花形であるこの部署は、温暖化対策なんてそっちのけ……会社に多大な利益をもたらす彼らにとって居心地の良い空間を備えるのが最優先、という方針だからだ。
まあ、古臭いと言えばそうだけど、優秀な人材に高待遇を与えるのは理に適っていると思う。
個人的には元々スーツの男性が好きすぎてクールビズには猛反対だし、外から帰ってきた彼らがデスクに座った途端、少し気の抜けた顔をしてネクタイを緩める姿なんてもう……眺めてるだけで元気が……
とにかく私は寒かろうが構わないのだ。
それから、第一営業部には少し変わったシステムがある。
外仕事の多い彼らには、それぞれに一人ずつ、社内で作業する事務員が付いている。言わば、“専属社内秘書”だ。(私の仕事がそれ)
そんな此処には、ここ数年業績トップの座を走り続けている花形中の花形、降谷さんという男性がいる。
その彼についていた先輩事務員が昨年寿退社して、その後を私が引き継ぎ降谷さん担当となり、しばらくが経った。
トップ営業マンのサポートは責任の重い仕事も沢山。でもやり甲斐はかなりあるし、楽しいとも言える毎日。
ちなみに……つい先日より……私とその降谷さんは、只の営業社員と担当事務員以上の関係になった。
あれは先月の最終日、7月31日の金曜日のこと。
時刻は17時、現在社外にいる降谷さんからOKが出れば(おそらく出る)、あと少しで私の終業時刻。
仕事を終えても良いかの確認と、もはや月末の恒例だけど、今月も降谷さんが業績トップだった事を称える文言、それから現在進行中の案件の状況、来週の大まかな予定等をまとめた降谷さん宛のメールを作る。
そのメールの最後に、あるお祝い文を付けるかどうかで迷っていた……今日は降谷さんの誕生日なのだ。
迷ったけど、結局付けずに通常通りの内容で送った。
いつもだったら割とすぐに返信があって、18時には会社を出れる、って流れ……
だけど今日は何故か17時半を過ぎても返信がない。
もしや何かトラブルでもあった……?あの降谷さんに?でもそれなら尚更連絡がありそうなものだけど。