Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第18章 朧月を見上げて【白馬探】
春うらら……正確な言葉の意味は知らない。白い大ぶりの花をつけた街路樹が並ぶ歩道を歩いていたら、そんな単語が頭に浮かんできた。きっと、ポカポカした、こんな陽気のことだろう。
今日なんて本当に暖かい。思い切って素足にしてよかった。
ふわっとした膝丈のスカートの裾を揺らしながら一人歩き続ける。今日は前から気になってたカフェに友達と行く予定。
待ち合わせ場所の、駅の側の大階段に着いて辺りを見渡す。友達の姿は、ない。先に着いたみたいだ。スマホを確認すれば13時50分、まだ待ち合わせ時間の10分前だった。
この階段はこの街の所謂有名“待ち合わせスポット”で。私以外にもツレを待ってる(と思われる)人がわんさかいる。なるべく空いている所に陣取り、スマホを開いた。
友達に“着いたよー”ってメッセージを送ろうかと思ったけど、まだ10分前だし……もう少し経ってからにしよう、と別のアプリを起動して画面を眺める。
5分くらい、そうしてたか。
突然、ものすごい風圧を感じて、バサバサ!っていう妙な音が後ろからして。振り向けば大きな茶色い鳥が、私の真後ろで中年男性の腕を掴み、その男性の頭を鋭そうなクチバシでつついている。
……一体何事だ、と固まる。
その中年男性は、オロオロ狼狽えながら泣いてるんだし。
一歩後退し、これ以上関わらないでおこう、と元々向いていた方向を向いた……が、今度は後ろから誰かに腕を掴まれた。
「Excuse me! Do you have a moment please?」
英語……?もう一度後ろを振り返る。と、私の腕を掴んでいたのはカジュアルなスーツ姿の若い男の人。懐中時計っていうのか?古そうな時計を反対の手には持っている。
ポカンとその人の顔を見ていたら(ちなみに滅多にお目にかかれないレベルの美形のイケメンだ)、今度は彼は日本語で喋り始めた。
「失礼、ここは日本でしたね。少しお時間よろしいですか?」
「はい、少しなら……?」
ちょっとキザな喋り方をするそのイケメンの話を聞けば、私は先程……この真後ろにいた中年男性にスカートの中を盗撮されてたんだ、と……!?
「嘘っ……」
「残念ながら本当です、貴女も一緒に交番まで来て頂けませんか?」
交番が目と鼻の先にあるのは知ってる。だけど……