Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第15章 歪な感情……憩の場所【ジン】
冬も近付いてきて、手肌も髪も乾燥が気になる今日この頃。いつものように仕事をこなしながら、そろそろかな、って思ってる事がある。
私が身を置いているのは美容師業界、女性が若くして独立するのも珍しくない世界。私も昨年から都内で自分の店を構えて、なんとかやっていけてて現在に至るんだけど……
実は私には独立できる程の技量や接客の腕があった訳でも無ければ、店舗オープンにはなんと一銭のお金もかけていない。
私の店には実質、別のオーナーがいるのだ。
そのオーナーと出会ったのはもう二年程前。
当時雇われていた美容室に突然現れた一人の男性客(新規のお客さんは皆突然現れるものだけど、彼は全く別格だった)。
まず目を引かれたのは、綺麗な銀色、ストレートのロングヘア。だけど次に感じたのは氷のように冷たい雰囲気。細身の長身、モデル体型で整った顔をしてるものの、物騒なイメージの方が強くて、イケメンと言うよりはかなり近寄り難い感じ。
運良く(運悪く?)その時間手の空いてる者が私しか居なかった為、私が担当することになったのだけど……
どんな注文をされるのかと思いきや、指定された内容はすごくシンプルなもので。私は淡々と作業をこなしていった。(銀髪は地毛!)
適度にカット、シャンプー、トリートメント、丁寧にブロー。それだけ。
注文内容以外に特に会話はしなかったけど、問題なく仕上げられたと思った……のに。出来上がりを鏡でチェックしてもらっていたら予想外の言葉が飛んできた。
「おい女」(私の事)
「はい?どうかされましたか?」
「店主を呼べ」
「……は、はい!あの……何か、お気に召さなかったでしょうか……」
「逆だ。いいから、店主を呼べ」
もしかして何か失敗した!?怒られる!?冷や汗が背中を伝った。バックヤードに引っ込み、店長に事情を説明し……
急いで店長と二人、その男性の所へ戻ると、もっと驚く言葉が待っていた。
「お前がこの女の雇い主か?なら、この女を辞めさせろ。それで女は、俺の所へ来い。俺が店を出してやる」