第11章 珪線石の足音
ソファーでごろんと太宰に甘えついたまま寝息を立てている彼女は、Aとの戦闘に向けて身体を治しているそうな。
九尾に変化したまますやすやしている絵は綺麗なもんだが……それにしても太宰から離れねぇなと思ったら、思い当たる節が無いわけでもなくて。
「太宰、手前さてはリアが何に悩んでるか知ってんな」
「知ってるに決まってるだろう、顔を合わせれば分かるよそれくらい。まあ私には一番言いにくいんだろうけどねぇ“その手の相談”は」
寂しがり屋で、どうしようもなく俺とこいつに心を開いちまったリアが両方手放せるわけがない。
そんなもん、“ずっと一緒にいたがる”に決まってる。
「どうすんだよ」
「待ってるんだよ、私から聞くと追い詰めてしまうだろう」
「言うと思うか?」
「どうだろう、そろそろ言えるようになってるかなとは思うんだけどね……この子は誰よりも優しい、神様みたいな子だから」
あの太宰がそこまで言うくらいにはお人好しだという評価らしい。
全くもってその通りである。
ま、自殺願望野郎に来世も生まれてきてください、転生できる薬を打たれてくださいなんて言えるわけもないのだろう。
自分がそこまで追い詰められていたのだろうから。
何せ俺と再会した瞬間は自殺中、更にその後ポートマフィアの拠点でも飛び降りを図っていたような奴だ。
「お得意の誘導はどうしたよ」
「そういうのが通じる子じゃないでしょ、見てよこの顔。私の腹の中の覚悟まで悟った上でこんなに懐いて甘えてるくせに、全然そういうことまで踏み込めないんだよ……私が待ってるのも、分かってる。あとは勇気と保証がほしいんだよ、私が二度と離れていかない保証が」
「ああ、そういや手前はリアのこと置いて出ていってトラウマを植え付けた張本人だったな」
「そう。本人は未来視で視てたのもあって普段から不安がってたんだけどね……この子を誰も知らない場所に閉じ込めるとか、この世界からいなかったことにするなんて、私には出来なかったのだよ」
ここ、と色の違う尻尾に触れると、んっ、とリアが反応する声が漏れる。
「なんで一本だけ色が違うか分かるかい」
「……聞いてねぇよ、元々十尾だなんだとは聞いてるけど」
「引っこ抜かれたんだよ。無理矢理、力ずくで」
薄々そんな予感はしていた。
「その犯人こそ、私達がこれから消そうとしている人物さ」