第11章 珪線石の足音
『ここは“森さんが”作ってくれた結界の中だから話した内容が漏れはしないけど』
曰く、気付かれぬよう血液を採取し、それを分析した後にワクチンにして取り込んだ。
自身で制御出来る範囲での力というのが大切らしく、それによって相手にその力を読み取らせないよう隠し、忍んでいる。
『残夏くんは多分、私がずっと何か企んでるってことには気付いてるの。でもまだ条件が整ってない』
「条件ってのは?」
『絶対に悟ヶ原家の先祖返りを殺せる算段が、まだついてない』
リアが人に対して殺すだなんて、珍しい話もあるもんだ。
そこまでしなければならない相手であるということなのだろうけれど。
「ん?……待てよ、殺すって」
『分かる?』
「おま、……あの研究ってまさか」
『…………先祖返りのシステムを破壊する。そうしなければ、転生した悟ヶ原が同じことを企まないとは限らない……彼女の子孫をただの人間に戻すしかない』
早く救われたいと、解放されたいと言っていたから、てっきり彼女がもう生まれ変わりたくないのだと……それだけだと思っていた。
『私ね、自分の研究の完成のためだけに、もう何回も…………何回も何回も何回も、皆のこと見殺しにしてきてるの』
皆とは、恐らくあの妖館の奴らのこと。
『一生分なんかじゃ全然足りないのよ、何もかも……でも、でも今世は中也さんがいてくれた』
「!俺が……何か力になれてるのか?」
『……本当に、申し訳ないとは思ってるの。でも、“汚濁”を使ったあの日に私の目的の半分は達成した』
もちろんそのためだけに接触したわけじゃないけれど、と本当に申し訳なさそうに……しかし淡々とした風を装おうと言うものだから、分かってるよと優しく撫でる。
『“荒覇吐”のサンプルで、対悟ヶ原用のワクチンが完成する。あとは…………その、後が問題で』
「問題って?……おまえにとっての敵を倒した後に、何か問題が残るのか?」
『…………どうしたらいいかわかんないの。……転生したいわけじゃない、けど……みんなはまた、きっと繰り返すでしょう?』
黙って聞いていると、もう少し掘り下げた言い回しにして、彼女は言った。
『本当はもう嫌なんだよ、こんな人生ばっか』
「……おう」
『でも、みんなにもう会えないのはもっと嫌……だって、思って』
「おう」
『…………どうしたら、いいかなぁ?』