第11章 珪線石の足音
今日は本当に珍しく、仕事をしなければといったような気負った感じがほとんどしない。
そんな彼女は俺の隣で抱きついたまま、眠くなれば眠り、目が覚めると可愛がられようと頭を少し寄せてくる。
『中也さんお仕事大変?』
「いいや?リアに癒されてっからゆっくり進めてるだけ」
『……癒されるの?』
「癒されるぞ?」
そうなんだ、と意外そうにしてから頬に口付け、更に抱きしめてきてくれた。
「なぁ、今回の作戦だが……黒幕は結局フィッツジェラルドってことでいいんだよな?」
『私的にはあの人は黒幕とは言いにくいけど』
「と言うと?」
『ん〜……なんていうか、そりゃあスケールの大きい事件だったわけだけど、そもそもおかしな話なのよね』
何がだと問うてみると、教えてくれる。
『“本の頁”だなんて入れ知恵をした人物がいるはずなのよ』
「……自分で調べたとか」
『あの人が辿り着けるような程度のものなら、他に何人もそれを知る者がいるはずよ』
「待て、つまりはあいつも唆されて『というよりは誘導ね、そう動くよう上手いことされた……みたいな』なんか太宰みたいなやり口だな、そりゃあ」
ケッ、と声に出したくなるほどのイラつきをあらわにするが、彼女はしばらく黙ってから、あながち間違いじゃないのよね、などと言い始める。
「あんな奴が二人もいてたまるかよ」
『いるんだよ、もう一人。中也さんも知らないことはないと思うけど……ある意味では私と似たような人とも言えるかしら。厄介なのよねぇ敵にいると』
「太宰とリアのハイブリッドなんざ、まあ相手になんかしたくねぇわな」
『リアも嫌なの?なんで??』
「俺はおまえに攻撃は出来ん」
『真面目にお話してくれますかね』
大真面目だと撫でて構い倒すのだが、検証を重ねれば重ねるほどに、フィッツジェラルド一人の思惑だとは到底思えない今回の抗争に疑問が募る。
「……おまえ、もしかして全部視えてる?」
『私がそれに干渉するってことは、中也さんから離れて一人でそいつの相手をしに行くってことになるけどそれでもいい?』
「ああいい、やめだやめだ。俺に情報を漏らすだけでもアウトならいい、ここにいろ」
『首領に報告「誰がするかバカ」……まあ、どうなるかな。そことの直接対決まで私が無事でいるかどうかも怪しいから……その、あんまり色々自信ないかも』