第9章 蛍石の道標
「リアちゃん、いい?とりあえずその二つは受け取るけど、他の仕事は“別の構成員が”するから、寝てなさい」
『…ね、寝てなくても別に、』
先程からこればかり。
首領の立場など関係なしに、誰がどう見ても仕事をさせられるような体じゃない。
「…体調不良者は治るまで休め、そんなに仕事がしたいなら元気になったらいくらでもさせてやるから」
『!中原さ…、』
少し、声色が柔らかくなる。
どこか必死な様子だったそれも、心做しかマシになったような。
「ほら、中也くんもこう言ってるから」
しかし、俺のたった一言がこの様子をすぐに一変させ、更に彼女を追い詰めてしまうこととなる。
「間に合うか心配なら他の奴にやらせるし…俺がするから。な?」
『へ…、っや、だ』
やだっつった、え、まて、どういうことだ。
「中也くん!!!」
非常にまずいといった顔を向けられる始末。
本当にわからん、何がいけなかったんだ。
『り、あがする…リアがするからもう少し待っ…、?』
少し興奮気味に俺に向けて言いかける傍から、よろめき始める。
反射的にそれを抱きとめて額に触れてみれば、想像していたよりもガッツリ熱くて驚いた。
「!!っ馬鹿かおま、…こんな熱出してて来てんじゃねえよ、早く家帰れ!?」
『ッッ、!?え、…中也さ、』
「中也くん、リアちゃんにその言い方は…」
「体壊しかけてる奴に仕事なんかさせられるわけねぇだろが!!…住所教えろ、送ってくから」
『ど、この…』
「お前の家だよ、一番休める所!!」
『……中原さん、とこ』
ポソリと零れた音に、思考が停止する。
何、言ってんだこいつ。
家族がいるんなら、そっちに…?
「……首領、その…反ノ塚とやらは?」
「ああ…平日だからねぇ、高校生だし学校じゃないかな」
高校生だと?
こいつの保護者代わりが?
「では、その親は?」
「一人暮らしのマンションのご近所さんなんだよ。小さい頃からの幼なじみだから面倒見てくれてるんだけど……リアちゃん、さては反ノ塚くんが家出たの見計らって飛び出してきたでしょ」
ビクリと、分かりやすくも反応する腕の中の少女。
「それじゃあどの道家にいたって一人ってことじゃ…、?…お、前もしか、して…」
半信半疑で、それを口にした。
「…俺んとこ、来たかったの…か…??」
一人が、寂しくて。