第34章 【運命の歯車】
「「へ~ぇ、そりゃ驚き桃の木パパイヤだ」」
突然、コンパートメントの扉が開いて、フレッドとジョージが入って来た。大方お菓子目当てで訪ねてきたんだろうが、思わぬ収穫があったみたいだ。瞳がおもちゃを目の前にした子供の様に爛々と光っている。
「良く見せてくれよハーマイオニー」
「ホントだ、触覚の周りがあの気色悪いババアの眼鏡そっくりだぜ。クリスも見て見ろよ」
「私は……いい」
「そんな事言わずに!」
無理矢理目の前にビンを押し付けられ、クリスはしぶしぶ中を覗いた。すると本当に触覚の周りがケバケバしいメガネのような模様のコガネムシが一匹入っていた。それを見て、クリスは思わず頬を緩ませた。
「ふっ……本当だ……」
「やっと笑ったな、クリス」
「俺達心配してたんだ。笑いは心のビタミンだぜ?クリス」
ビンから顔を外すと、すかさずフレッドがクリスの頬をつまんで無理矢理上に持ち上げた。
「悩ましい顔もそそるけど、やっぱりお前には笑顔が1番!」
「良い事言うね相棒!そうそう、女の子は笑ってなくちゃな!!」
「そうだ聞いてくれクリス!俺達、素晴らしいスポンサー様が付いてくれたお陰で、夢だった悪戯専門店が開けそうなんだ」
フレッドとジョージが、ハリーの方をチラリと見て笑った。ハリーは咄嗟にそっぽを向いたが、その態度から双子に何かしたことは火を見るよりも明らかだった。
フレッドとジョージの悪戯専門店。楽しそうだが、今のクリスには心の底からそう思う事は出来なかった。胸にぽっかりと空いた穴に風が吹いて、虚無感というものが身体を支配し、今は何もかもがどうでも良かった。
ただ――開いた穴を塞いでくれる人はもうどこにもいない。それだけは事実だった。
(心が……心が寒いんだ、セドリック。こんな時、貴方ならどうしてくれた?)
クリスの問いは、青空の中へと消えていった。それは皮肉にも、かつて彼女が自分の人生と重ね合わせて忌み嫌っていた雲一つ見当たらない、透き通るほど綺麗な蒼穹の空だった。
――そして 運命は 回り出す
人生と言う 迷路の中で 交差した2人の道
運命を切り開くものと 運命から抗うもの
2人の道は いったい 何処へ続いているのか
それはまだ 誰にも 分からない――