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ハリー・ポッターと闇の姫君

第34章 【運命の歯車】


 誰かがヒソヒソ話す声で、クリスはゆっくりと目を開けた。体中がだるくて動く聞かせず、頭の中も靄がかかった様に霞んではっきりしない。
 そんな中、まず最初に視界に飛び込んできたのは燃えるような赤毛だった。それから栗色の髪と、最後に真っ黒くてクシャクシャした髪が目に入った。 

「本当にあげて良かったのかよ」
「……良いんだ。あれは本当はセドリックが持つべきものだから」
「だからって賞金丸ごとフレッドとジョージにあげなくても――」

 この声は――再び目をつむり、クリスが必死に記憶を手繰り寄せていると、明るい談話室が思い浮かんできた。そうか、ここはグリフィンドールの談話室だ。自分は永い夢を見ていたんだ。永くて、永くて、不吉な夢。父とセドリックが死ぬ夢。それから――。

(それから、何だっけ?)

 自問するクリスの耳に、またひそひそと話す声が聞こえて来た。

「これからは『笑い』が必要になる。例の――いや、ヴォルデモートが復活したこれからは」

 その一言を耳にした瞬間、クリスの頭の中に全ての出来事がフラッシュバックしてきた。
 墓場に連れ去られた事、父が自分を裏切っていた事。ヴォルデモートが自分の父だったと言う事。セドリックの死。ハリーとヴォルデモートの決闘。そして自分を庇って倒れた、黒くて大きな影――。
 クリスは深く息を吸い込むと、ガバッと起き上がった。

「クリス!」
「目が覚めたのね!!」

 良かった、と言ってハーマイオニーが抱きついてきた。よく見て見ると、そこは談話室なんかではなく医務室で、ハーマイオニーを挟むようにロンとハリーが丸椅子に腰かけている。2人ともクリスの顔を見てホッとした様子だった。

「ここは……医務室?」
「そうだよ、君、丸1日眠り続けてたんだよ」
「体は大丈夫?どこか痛いところとか無い?」
「あ……あぁ、大丈夫だ」

 痛いところはどこにも無い。だがそれが逆に現実味を失わせた。まるで自分の魂はまだあの墓場を彷徨っていて、体だけ医務室に戻ってきたみたいだ。

「あれから……どうなったんだ?」
「君、何にも覚えてないの?」
「何だか、記憶があいまいで……」
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