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ハリー・ポッターと闇の姫君

第26章 【消えたクラウチ氏】


「ようこそ、皆さま。今日は火星の位置が素晴らしい角度を示しているので、それについて皆様に透視してもらおうと思いましたの」

 クリスは暑くて息苦しくて、呼吸が苦しくなってきた。トレローニー先生のいう事の半分しか聞けず、ただボーっとランプの明かりだけを見つめていた。
 するとどんどん心臓が圧迫される様な気がして来て、ますます息をするのが耐えがたくなってきた。それだけではない、時間が経つにつれ、左腕の痣がジクジク痛み始めている……。
 クリスは教室を出て行こうかどうしようか迷った。そうこうする内に、左腕は熱を帯び、やがて焼き鏝を当てられているかの如く痛み始めて来た。
 クリスは我慢できず、小さなうめき声を上げて右手で左腕を抑え付けた。誰か助けてほしい、誰か――。

「うああああああぁぁぁ!!!」
「ハリー!しっかりしろハリー!!!」

 突然ハリーが叫び出して椅子から転げ落ちたと思った瞬間、クリスの腕の痛みがひいてきた。ハリーは額の傷を抑え、油汗を大量に流している。これは……1年生の時と同じだ!!

「まあポッター、どうしましたの?不吉な前兆を見たんですの?それとも不幸の前触れ?」

 トレローニー先生は、餌を目の前にした犬の様に興奮しきっていた。なんとしてもこの騒ぎとハリーの不幸を結び付けたい様だ。
 ハリーはロンに助けてもらいながら起き上がり、額の汗をぬぐった。

「何を見たんですの?大丈夫です、私こう言う事には慣れております。彼方はきっと火星の不吉な位置関係と私の透視振動の強さに影響され、自らの死を追体験したんですわ!!」
「違います、僕ただ頭が痛いだけです。医務室に行きます」
「お待ちなさい、ポッター。彼方に必要なのは医務室ではなく私の――」
「今は痛み止め以外見たくありません!!」

 ハリーが怒鳴ると、カバンを持って撥ね戸を乱暴に開けて立ち去って行った。トレローニー先生は折角の獲物を逃した動物の様に、恨めしそうな目でハリーの後姿を見つめていた。
 その一方で、クリスは左腕を押さえながら何か良くない事が起こっていると確信した。
 ――ハリーの後を追おう。クリスはカバンを引っ掴むと、トレローニー先生が何か言い出す前に教室を出て行った。
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