第23章 【愛すべき野良犬】
静寂の中、バックビークがシリウスが残した骨をバリバリかみ砕く音だけが辺りに響いた。ふと、歩き回っていたシリウスが足を止めた。
「『闇の印』が現れ、屋敷しもべがハリーの杖を持ったまま発見されるまで、クラウチは何をしていたか分かるか?」
「茂みの様子を見に行ってた。けど、ウィンキー以外は誰も見つからなかったよ」
「だろうな……クラウチからすれば、屋敷しもべ以外見つかったら危険だと察知していたんだ。それで、クラウチはその場で屋敷しもべを解雇したのかい?」
「ええ、そうよ。あの人ったら酷いのよ!!」
「ハーマイオニー!頼むから今は黙っててくれよ」
「いや、ロン。クラウチの事はハーマイオニーの方が良く見ている。その人の人格を見るには、目下の者をどう扱うかを観察するんだ」
シリウスはまた歩き出して、洞窟内をうろうろし始めた。
「バーテミウス・クラウチが謎の不在……わざわざクディッチ観戦の席を取っておきながら、屋敷しもべを座らせたまま現れなかった。三大魔法学校対抗試合にも随分尽力したのに、それにも来なくなった……私の知っているクラウチらしくないな。あいつが仕事を休む時があるとすれば、辞職願を出す時位なものだ」
「シリウスは前からクラウチさんを知っているの?」
「知っているも何も、私をアズカバンに送り込んだのは奴だ。裁判も無しにな」
その驚きの発言に、4人は声をそろえて「えーー!!」と大声を上げた。
なんという運命のいたずらだ。まさかシリウスを長年アズカバンという劣悪な環境の中にぶち込んだ張本人が、休んでいるとはいえ三大魔法学校対抗試合の審査員に選ばれるなんて。
あまりの驚きに、4人はしばらく口をぽかんと開けていた。
「クラウチは当時、魔法省の警察である『魔法法執行部』の部長だった。かなり仕事のできる人物で、次期魔法省大臣だと噂されていた程だ。いや……仕事が出来過ぎた、と言っても良い」
「どういう事?」
「クラウチははっきりと闇の陣営と対立していた。だがそれが仇となって――いや、よそう。若い君たちに話す内容じゃない」
「子供扱いは止してよ!」
「そうだよシリウス、知っている事は話して!」
「――良いだろう。だが、後悔する事になるかもしれないぞ?」
シリウスは持っていたチキンの骨を放り捨てると、瞳を光らせ、不敵な笑みを浮かべた。