第19章 【Party night】
いつの間にか曲が終わり、クリスは夢から覚めたような気がした。少なくとも、踊る前より気分が良い。
「たまには、お前と踊るのも悪くはないな」
「だから言っただろう、初めからパートナーを僕にしておけって。僕なら女性にリードさせるなんて無様な真似はしない」
自信満々のドラコに、クリスはディーンとのダンスを比べてちょっと笑ってしまった。ディーンには悪いが、やはりドラコとの方が相性が良い。14年の付き合いは伊達ではない。
「やっぱり良いな、幼馴染って」
「幼馴染兼許婚だろ」
「だから、許婚の件は白紙に戻してやるって言っ――」
ドラコと並び立った時、初めて目線が上を向いている事に気づいた。おかしい、1年生の時は殆ど変わらない身長だったはずだ。それなのに、今や頭半分以上差がひらいている。
「ドラコ、お前……もしかして身長伸びたか?」
「ん?何を言っているんだい?3年生の時にはもう君の身長を越していたぞ」
「なん……だと?」
「はぁ……僕と君は男と女だ。いつまでも同じなんてありえないだろう」
「でもっ――」
「ちょっと!何やってるのよクリス!!!」
その時、シャンパン・グラスを両手に持ったパンジー・パーキンソンが怒ったブルドックのような顔をして近づいてきた。
「人がちょっと飲み物取りに行っている間にパートナーを横取りするなんて、どれほど厚かましいの!?この泥棒猫!!」
「違うんだパンジー、僕が誘ったんだよ」
「ひ……酷いわドラコ、折角私と言うパートナーが居ながら……」
パンジーは瞬きしたらこぼれ落ちそうなほど、目にいっぱい涙を溜めて『可愛そうな私』を演じてみせた。これには流石のドラコも参っていた。
そんな光景を見ながら、クリスはため息まじりに微笑んだ。そうだ、結婚するならやはり、愛がないといけない。自分は、パンジーの様にはなれない――。
「さっきは助かったよ、ドラコ。またな」
「あっ、クリス!!待っ――」
「ドラコ!行かないで!」
必死になって止めるパンジーを引き離すことが出来ず、ドラコはその場にとどまった。クリスはそんな2人を振り返りもせず、独り大広間を後にした。