第19章 【Party night】
あれからどうやって談話室まで帰ってきたか覚えていない。長い間、中庭で呆然としていたのだろう。身体が冷え切っていて、気が付くとクリスは暖炉の前のソファーで火にあたっていた。
パチパチと燃える薪の音を聞きながら、クリスは呪文の様に頭の中で言葉を繰り返していた。
(あれはただの挨拶、あれはただの挨拶、あれはただの挨拶、あれは――……)
ぼーっと暖炉の火を見ているクリスの背後から、2つの影が忍び寄ってきた。クリスが気づいた時には、もう遅かった。バッと勢いよく両サイドから腕をつかまれ、クリスは仰天した。
「探したわよ、クリス!」
「さあ、積年の思い、今こそ果たさせて貰うわ!」
「な……何をする気だ?止めろ、止せ、止めろ~~!!」
ラベンダーとパーバティに連れられて、クリスは女子寮へと連行された。
【第18話】
「だってクリスってば、頼んでも頼んでもちっともメイクさせてくれなんだもの。前に約束したのに!」
「やだ、この化粧水、超高級ブランドのやつじゃない!この乳液も美容液も!」
シャワーを浴びた後、バスローブ姿のままクリスは鏡の前に座らされた。ラベンダーの脇には大きなメイクボックスがあり、パーバティは基礎化粧品を品定めしている。
「そう言えばクリス、普段使っているトリートメントとかも高い奴よね。セレブ御用達のハイブランドばっかりだし」
「私の化粧はナル……じゃない、ドラコのお母さま専門だったから、基礎化粧を怠ると怒られるんだよ。『女の子なんだから、身なりは綺麗にしなさい』って」
「なるほど、クリスの外見は地道な努力の賜物だったわけね。私も見習わないと……」
「ねえクリス、今日このクリーム、使わせてもらっても良い?」
「……もう好きにしてくれ」
クリスは2人の勢いに負け、どうにでもしてくれと全てを投げ出していた。ラベンダーがクリスの化粧をしている間に、パーバティがドレス一式の入った箱を空けて中身を取り出していた。
「以外だわ、シンプルな黒のドレスね。ああっ!でもこのネックレス凄くゴージャス!それにこの靴も高そう。こっちは紅い薔薇の髪飾り、紅い瞳のクリスにぴったりね」