第15章 【ドビーとウィンキー】
噂と言うものは厄介なものだ。放っておけば麻疹の様に、誰かれ構わず広がる。おまけに尾びれと背びれがくっついて、クリスは今や学校中の女子の敵となっていた。
と、言うのもつい先日セドリックがクリスマス・ダンスパーティの相手にクリスを誘ったが、それを断った事が女子の嫉妬の炎に油を注いだようだ。
セドリックは『正常な』女子なら誰もが誘ってもらいたいと思うほどルックスもイケメンで、そんなセドリックが折角自ら誘ってくれたのに、それを高飛車な態度で無下に断ったと言う話しが出回り、その所為でクリスの評判は女子の間でがた落ちしていた。
だが、今更そんな事を気にするクリスでは無かった。「言いたい奴には言わせておけ」と言うのがクリスの本音だが、問題は他にあった。
「やあ、クリス。僕と一緒にダンス・パーティに行かない?」
「断る!!」
こんな調子で、興味本位でクリスに近づいてくる男子生徒が続々と現れてきたのだ。あのセドリック・ディゴリーを断った相手を自分のパートナーにする事で、男としての株を上げようと言う魂胆だ。そのお蔭で、教室を移動するたび、クリスは誰かしらに声をかけられる羽目になった。
「やあクリス、よかっ…――」
「NO!!」
一週間がたつ頃には、クリスは相手の顔も見ないで断るのが癖になっていた。
それでなくとも、あの小煩いドラコが少しでも隙を見せればやって来て、お決まりの「許婚同士ダンスパーティに出よう」という文句で誘ってくるのだ。もうクリスからすれば、とっととクリスマス休暇が来てくれる事を願うばかりだった。
それにもう1つ、クリスは家に帰りたい事情があった。左腕の痣が、だんだん濃くなっている様な気がする。いや、気ではなく、実際に濃くなってきていた。だからこの事を父様に相談したいと言う願いもあった。
「あーっ、もう嫌だ!なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」
『薬草学』の授業が終わり、温室から城へ戻る最中、クリスは愚痴をこぼした。ついさっきも名前も知らない5年生の男子生徒がやって来て、クリスをパーティに誘いに来たばかりだった。それでなくとも痣の所為で情緒不安定気味なのに、あちこちから誘いが来てクリスは頭がいっぱいいっぱいだった。