第4章 3日目
大雨なんて降ることはなく今日も私はここにいる。
そして、隣にも人がいる。
昨日と変わったことは最初から私と同じ方向を見てること。
互いに何をするわけでもなくただ金木犀を眺める。
「この香りは金木犀の香りなのか?」
「はい。」
「そうか。いい香りだな。」
金木犀の香りは独特で苦手な人もいる。
だから、ちょっと嬉しかった。
「私もこの香りは好きです。」
少しだけ弾んだ声が出た。
再び2人の間に沈黙が続いた。
ポケットに入れたスマホが1時間を知らせた。
「帰るのか?」
「はい。」
立ち上がり歩き出す。
「最後に一つだけいいか?」
特に振り返ることはせずに言葉の続きを待った。
「名前は?」
ちょっと驚いた。
まさか名前を聞かれるとは思わなかった。
「名前・・・。」
「自分が名乗らないのは失礼だったな。俺は咲夜(さくや)だ。」
「ごめんなさい。名前は教えられないです。」
「なぜ?」
その質問には答えずにイヤホンをつけ再び歩き出した。