第7章 金木犀の散る頃
思った通り昨日の雨でだいぶ散ってしまっている。
そして、どの花もいつ散ってもおかしくない状態。
やっぱり今日で最後かな。
「今日で最後か?」
咲夜さんも分かったのか。
「そうですね。きっと明日までは保たない。」
「最後でも名前は教えてくれないのか?」
「・・・教えられません。」
なぜそこまで私の名前を知りたがるのかわからない。
それ以上何かを聞いてくることはなくいつも通り1時間が経った。
いつも通り立ち上がり歩き出すといつもと違うことが起きた。
グッと強く右手を引かれ気付いたら咲夜さんに抱きしめられていた。
「あの・・・。」
下を見ると私のお腹に咲夜さんの手が回っている。
やっぱり今日もスーツだ。
「いきなりすまないな。こうでもしなければ捕まえられないと思ってな。」
クルッと向きを変えられる。
ますますこの人が何を思っているのかわからなくなった。
顔まで隠れるフードをパサリと取られ私の長い銀髪が風に舞った。
毎日会ってるのに初めて咲夜さんの顔を見る。
うわー。ビックリしたー。
その顔は女の人より綺麗なんじゃないかと思うほど綺麗だった。
そして、やっぱり若めだ。
「毎日会ってるのに互いに初めて顔見たな。」
咲夜さんの手が私の銀髪に触れる。
「地毛か?」
軽く頷くと咲夜さんは満足気に笑った。
「綺麗だな。」
自慢の髪を褒めてもらえて嬉しくて思わず笑ってしまった。
・・・あれ?
咲夜さんの顔がドアップで目の前に映る。
あ、キスされてるのか。
理解したと同時に咲夜さんが離れた。
「また会えないか?」
「私は金木犀が咲く頃にまたここにいます。」
それだけ答える。
「そうか。」
それだけ言うと私を解放してくれた。
咲夜さんに背を向けて歩き出す。
「まるで金木犀の妖精だな。」
イヤホンをする直前にそんな嬉しい言葉が聞こえた気がした。